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木材の耐朽性

木材の耐朽性 〜木は腐る?!心材と辺材を学ぼう〜


木の持つ不思議な力やその特性は、様々なところで利用され身の回りにも、それぞれの特徴を活かした木材製品があります。
昔に比べ近年は少なくなっているとはいえ、木材を使う時にはその特性を考えて使うものです。

その木材の持つ特性で、一番よく語られるのは耐久性ではないでしょうか?!
一言で言っても腐る腐らない、強い弱い、硬い柔らかい等など色々な耐久性があると思いますが、利用上最も重要視されるであろうことはやはり「耐腐朽性」でしょう。

屋内や水かかりのない場所、湿気の心配のない場所ではそれほどではないですが、それでも、洗面所などの湿気の多い場所に使われるものや屋外で使用されるものには、耐腐朽性が求められます。
そこで重要になってくるのが木材の「心材と辺材の区別」と、もちろん樹種の区別です。

木材には、心材と呼ばれる部分(一般的に赤身という)と辺材(一般的に白太という)と呼ばれる部分があります。

杉柾特殊加工羽目板 1


 杉の柾目で見ると、如実に心材である赤身と辺材である白太の差が出ますね。
 綺麗なコントラストです。




そして木材の耐腐朽性を考える時、最も重要なのは樹種とその心材部を選ぶということです。そして「木材の耐腐朽性」を語るときには、この心材部の事を指しているのだということを覚えておいてください。
それはそれだけ耐腐朽性に違いがあるからです。

木材の心材とは木の中心部分=heart wood であり、一般的には辺材よりも材の色合いが濃いところの事です。
心材は主に木自身の樹体の維持を担っている部分です。
そして意外に知られていないかもしれませんが、心材部分は樹体の維持以外には、生命活動にはほとんど役目を果たしていません。
つまりは活動していない部分、ということです。

私の大好きな巨樹巨木探訪に赴くと、数千年もの時を生きてきた巨躯を目の当たりにすることしばしばですが、実際のところ、その木の全てが数千年間生命活動しているのではなく、ごく限られた部分が今現在活動しているのであり、殆どの部分は活動していないということを考えると、少し興醒め?!かもしれませんが、それとこれとは話は別、と考えましょう。
数千年個体を維持してきたと考えれば、立派に尊敬に値します。

そしてよく観察すると、巨樹の中の多くは幹の中心部分つまりは心材部分が空洞になっています。
先日の有洞のサワラ蒲生の大クスもそうですが、木の中心部分が空洞になっています。
皆さんはこの「空洞=穴」を見て、「かわいそう、痛そう」と思いませんか?
人間なら、これだけすっぽり体の中心部分が空洞ということは無いと思いますが、木は空洞でも生きていけるのです。
先に述べたように、中心部分=心材は生命活動を担っていないから、です。
もちろん、幹の内部までしっかりとしているものの方が折損などの心配は低いでしょうが、数百数千年の時間を過ごしていると、傷も入るし虫もつく。
そしてその部分から腐朽菌が入り空洞化する場合があってもおかしくありません。
また、木々は成長によって自分自身の内部に様々な力の作用を蓄えます。
それが木の癖や使ううえでのポイントとなる反りなどにつながってくるのですが、この内部の力のうちの芯を圧縮する力の作用によって、芯が無くなっていくと聞いた事があります。
数千年の樹齢のものにはそれだけの負荷がかかっているということです。

それに対し木は、辺材部分の一部が生命活動には重要な役割を担っています。
辺材部分とはまさに、生命活動を司る水分通導を担い、活動している細胞によって樹皮との間に新しい組織を形成していきます。
これが幹が太るという事で、木は中心部分から大きくなるのではなく外側部分が新しくなる事で太っていくのです。

桧年輪 1













そのため、辺材部分には水分も栄養も多い為腐朽以外にも、シロアリキクイムシの様な様々な虫の食害を受けるようになります。

ケヤキ被害木 2


 このように、くっきりと辺材部分のみを食害します。







これが、心材と辺材の大きな違いです。

では、心材と辺材の違いはどうやって生まれるのか?!

実は、心材も元々は辺材なのです。
ややこしい話ですが、新しい細胞により細胞壁がつくられるとその細胞は生命活動を終え、木化します。つまりはそれが辺材部分です。
白太の中で生きている細胞はそのうちの5%と言われています。
そして役目の終わった辺材は、5%のうちの柔細胞という組織のもつ酵素によって細胞壁中に「心材物質」というものが合成され着色し、移行材を経て心材になるのです。
それで、心材の色が濃く辺材の色が薄い傾向にあるということですね。

この流れがあるからこそ、樹種ごとに固有の心材部分の特徴が出来、その時に蓄えられる成分が菌に侵されにくかったり、食害する虫に対して毒性があったりするので、耐朽性が高くなるのです。
とはいえ、この心材化は樹種によって数年~数十年と言われていますから、決まったサイクルではないのかもしれません。

これらを踏まえて耐腐朽性の話をしましょう。
木材の利用において樹種の特性を活用しようとする場合は、ほぼ心材部分の性質を活用しているということ。

腐朽性について 2










そしてその心材部分にも、樹種ごとに差があること。
木材の耐朽性を示す言葉や表も、心材部分を比較して初めて意味がある事で、たとえ桧であっても辺材部分は食害も受けるし腐朽しやすいものです。
屋外に使う材料も、桧材だから腐れや虫害は大丈夫、ではなく赤身の部分があるかないかで決まるということです。

腐朽性について 3


 上の写真の桧でも、製材面で見ると、中央の少しの部分にしか赤身が露出していないことがわかります。それ以外の端の部分は白太ということです。


もちろん、桧は耐腐朽性の大きな樹種ですし、他のヒノキ科の木材であるヒバやネズコなどは総じてその傾向にありますから、ヒノキ科の木材の赤身を使うことで、木材を使った建物や部材の寿命を長く見る事が出来ます。
紹介した米杉(レッドシダー)の羽目板は、その特徴を活かした使い方の典型と言えます。

また、広葉樹の中でもハードウッドと呼ばれる比較的耐腐朽性の高い樹種も、やはり辺材は虫の食害を受けたり腐朽する事があります。針葉樹に比べれば、劣化のスピードは遅いと感じますが、それでも心材部分を使いたいものです。
それも、心材物質によって虫に対する抵抗性があったり、精油成分が腐朽菌の繁殖を抑えたりしてくれるおかげです。
特に耐朽性が高いというわけでもありませんが、弊社が昔大量に在庫していた「ラワン材」の夢のかけらが今も少し残っているのですが、それらも雨ざらしの部分や地面に接している部分も意外なほどに腐朽していません。

腐朽性について 4










製材した残りの部分を立てているのですが、弊社は土間がコンクリートではない部分があるので、昔のまま地面直におかれているところがあります。(本当はいけません。何らかの理由でそのままでは使いにくいものばかりですが、それでも砂が噛みますし、腐食もします。悪い例ですね・・・)

腐朽性について 1



 それでも、ほとんど腐食していないことには私も驚き。





そのあたりの経験則からいっても、針葉樹では価格よりも心材部分の多い耐腐朽性の高い樹種を、広葉樹ではハードウッドの心材部を使うことが、材を長持ちさせるコツだと言えるでしょう。
値段だけで決めてしまうと、すぐに取り換えなくてはならないことになる、ということです。

もちろん、決して辺材部(白太)が悪いわけではありません。
その色見の美しさは、高樹齢杉純白浮造り羽目板や、ロックメープル幅広無垢一枚物フローリングロシアンバーチ幅広無垢一枚物フローリングを見ていただければわかっていただけるところですね。

余談ではありますが、もし木材を使用する場所が南極であればどうなるのか?!

実は、かの地では腐朽するということはないのだそうです。
その理由は「寒すぎるから!」・・・・・・・・・ではなく、腐朽菌が存在しないから、と聞いた事がありますが、頷けます。
つまり、木材が腐朽に陥るのは、水分があり適度な湿度が保たれ、尚且つ酸素があることが条件です。
これらが何か欠けると腐朽菌は繁殖できません。
腐朽しない、ということです。

海に浮かんでいる木材が腐って無くなってしまうことはないですね?!土埋木や神代木が出てくるのも、酸素が断たれた状態だからです。

ここからわかるのは、「木は腐るもの」ではなく「腐る環境をつくらないこと」を前提に考えなくてはならないということです。
使用する環境を考えるということですね。

最近は、大阪木材仲買会館の様に都市部の大規模建築物にも木が使われるようになり、「木は燃える」という単純な概念では語れなくなりました。
そろそろ、「木は腐る」も考え直す時ですね。
木は腐るではなく、使う環境によって腐らせるのです。
使う方がその特性を理解し、使用環境を改善すれば腐朽のスピードを大きく緩める事が出来ます。
木を知ることは、こう言った木との共生を学ぶこと。

詳しい事は街の材木屋さんが教えてくれることと思いますが、木材を使う時は、こういった樹種の特性や木の特徴を踏まえておくと、有効に上手に木と付き合っていくことが出来ます。
木も人も、存在する環境が大切。
お互いに「くさる」事のない様に環境を考えろ、ということなのかもしれません。



木ぃクンmuku_mokuzai  at 13:15コメント(0)トラックバック(0) この記事をクリップ!