空を見上げて
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島根県

守られた550年 〜大元神社の樟(くすのき)〜

巨樹巨木に求めることはなんでしょう。
私の場合はほぼ、第一印象です。

それは巨さであったり、立地条件であったり、樹形の良さであったり、異形と形容したくなるような姿であったり。
様々な第一印象がありますが、クスノキの巨樹ではその多くの条件を満たすものが多く存在します。

それは、社殿に近い神木として大切にされている場合や、数百年の樹齢の物でも相当な迫力を有しているものが多く、その幹周りも眺め応えのある太さの物が多くあるからです。
だからこそ、その迫力を伝えようとするあまりに接写された写真が多くなり、全体の様子を伝えきれない事態に陥るのが、アマチュア巨樹巡りの欠点。
眼で見ている視界が、そのままカメラにも収まるように考えてしまうので、全体像を伝えられないのは毎度の反省点である私。

しかしながら、ここのクスノキは久しぶりに遠く離れて眺められる見事な姿でした。


大元神社の樟 1


訪れたのは、あいにくの雨の日。
時折風を伴って強く降ったりするので、カメラもおちおち構えていられない状況でしたが、それでも様々な角度からの姿をフィルムに収めたい(デジカメだけど)気持ちになる、大元神社の樟(くすのき)です。

開けた土地の坂の上に、まさしく大クス!という出で立ちを誇っています。
雨が無ければもっと、三脚使用や様々な遠景写真を撮っておくのですが、傘をさすと撮影しにくいし、傘がないとすぐに水浸しになってしまう状況なので、とりあえず近づいてみることに。


大元神社の樟 3


周囲には柵がされていますが、2重になっており最初の模造木の柵の内側には入れる模様。
特に写真下手な私にとっては、その迫力を伝えるメインは「昌志メーター」ですから近づけるかどうかは非常に重要。

幹分かれがあるため単幹の巨樹!というものではないものの、枝の広がりや堂々としたその姿はさすがです。

こちら側からは、住宅があるために離れて撮影する事ができませんから、写真ではおそらくその迫力は全く伝わらないと思います(汗)。


背景がもし青空であれば、その葉の隙間から見る空が美しいはず、と思ってしまうだろうと考えて眺めるのは、大枝からでる小枝に隙間があるから。
曇天でも空と青葉がまじりあって見えますが、これだけの巨さなので「緑の傘に覆い隠される」というイメージかと思いきやそうではないのです。

もちろんそれは、丘のようになったクスから斜面下に向かって視界を遮るものがないことが大きな理由。
斜面から見上げた時も同様に、気持ちがいいくらいに遠くからこの姿を眺めることができるため、遠くも近くも二度美味しい?!的な味わいを持っています。


大元神社の樟 11


これは、斜面下部から見上げるようなアングル。
やはり、巨樹は畏敬の念を持って見上げるもの、と思ってしまう見事な樹形と枝ぶり。
写真右下には休憩ができる場所が確保され、駐車スペースとともに御手洗いもあり、至れりつくせり。

こんなに見事な巨樹を前にして、駐車スペースを気にしながら撮影するなんて集中できませんから、有難いことです。
地域の皆さんと土地の所有者の方には本当に感謝です。

地域の宝をゆっくりと見てもらおうということなのかと思いますが、それもそのはず。
写真には鳥居が写っています。

ここには以前、大元神社がありその御神木だったのがこのクスノキだそうです。
現在の姿しかしらなければ、鳥居を介してクス自体が御神体として祀られているように感じますが、やはりお社があったのですね。


大元神社の樟 8


現地の解説版によると、本殿・拝殿・神楽殿があったというので、立派なことだったのでしょう。
明治44年に三渡八幡宮へ合祀せられて、このクスノキだけが残ったとあります。
その当時から見事な姿だったんでしょう。

しかし、立派なクスノキの避けて通れぬ宿命に直面しています。
それは、樟脳の精製。
拙記事の木まぐれコラムのクスノキ編でも触れましたが、戦時下軍需物資として、樟脳製造業者がクスノキの譲渡を強力に申し入れてきたといいます。
それを免れるため、反対運動を行い島根県に天然記念物の仮指定を申請し、後に指定を受け続いて国の天然記念物(一時)にも指定され、その難を逃れたのだそうです。


大元神社の樟 看板



仮指定を受けたのは昭和14年。
その時はどんな姿だったんでしょう・・・

樹齢はおよそ550年と言います。
千年を超えるクスノキも少なくない中では青年、という樹齢かも知れませんが昭和の初期にもさぞ美しかったのでしょうね。

その時に守られたことによって、現在私がその前に立っている。
歴史とその当時の情勢に想いを馳せたくなります。


さて、最初に分岐しているとお伝えしたその見事な姿、実は合体木だそうです。


大元神社の樟 5


こんなに太い2本が並んでいることは珍しいと思いながらも、合体木というのは古くから見られるものですから、それも納得。
同じ島根県で、古代の森を知ることのできる素晴らしい施設である三瓶小豆原埋没林公園(すでに二ケタ訪問を達成し、いつもお世話になっている)においても、太古の昔の合体木を見る事ができます。

神代木となって、時空を超え目にする合体木は数千、数万年前の巨樹巨木の林立する様子を想像させます。

そう考えると珍しいものではないのですが、双方が合わさることで周囲に見事な枝ぶりを誇っていることが珍しく、さらに、その根元にはもう一本の幹が立ち上がっていることも見所です。


それらが一緒になって、単幹ではないものの美しい樹形を維持しているんです。

大元神社の樟 10


空の青は見られませんでしたが、青々とした田畑とで曇天ながらも清涼感いっぱい。

解説版には幹周り約12.5m、枝張東西に約38m、南北に約42mとあります。
私が大好きな美しい樹形のクスノキである加茂の大クスの同、約13m、46m、40mにも通ずるような数値を誇っています。

よく残してくださったものです。
勿論のことながら、現在も県指定第一号の天然記念物となっていて、県内最大のクスノキです。
単幹でこのスケールであれば、樹齢1000年クラスかもしれませんが、この美しさに樹齢は関係ありませんよね。

それに、このスケールの巨樹としては若いこともあるので、もしかするとさらなるトランスフォーム(?!)もあるのかもしれません。
その理由はこれ。


大元神社の樟 9


まるで意志をもった触手の様にのびる枝が、もう地表に触れているのです。
日本海側のスギであれば、間違いなく伏状更新で新しい樹幹が立ち上がっているであろうと思われる場面です。

垂れた枝先が再度空に向かって立ち上がっているのは、おそらく地表面を感じているからに違いありません。
この先、この枝がどのように成長するのか見てみたい気持ち。

大きな腕を差し出されているような感じで、思わずその樹皮をさすってしまいました。

最後にもし、一つだけ巨樹としての贅沢を言うのであれば、扁平な樹幹が完満(全体に太く)であればもういうことはないのですけど、それも個性ですからね。
存在感は十分です。

だって、いつもの比較でこれだもの。


大元神社の樟 12


ね、十分ですよね。

このスケール感は、下手なカメラ技術では伝えるすべがありません(汗)。
これを見ると、若干斜面下方に勾配が付いていることが分かります。
三脚が水平ですから。
それが余計に、下部からの迫力を生んでいるのですよね。


550年の命を、地域の人たちとともにしてきた巨樹。
樟脳という、時代の宿命をも乗り越えて目の前に居てくれる幸せを噛み締めながら、この後およそ450kmの大阪への帰路にかかる6時間という道程に入る自分への土産として、その景色を目に焼き付けたのでした。


大元神社の樟(くすのき)所在地

島根県鹿足郡津和野町池村1536

駐車スペース、御手洗い完備
(地域のみなさん、ありがとうございます!!)



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茂みかきわけ袂まで 〜沢田の大杉〜


自分でも意外なほどに、超々長期掲載となってしまった「樺(カバ)を知る!」シリーズ。
書き出すと止まらない樺への想い・・・
カバザクラとの誤解解消も含めて、ため込んできた想いが爆発したシリーズとなりました。
その影響?!で、ずっと掲載できていなかった巨樹の記事を久しぶりに更新したいと思います!

私が巨樹をめぐる時には、巨樹の書籍やネット記事を参考に予習をしていくのですが、情報があるからこそ助かるメリットと、知っているつもりで油断してしまうデメリットを感じることがあります。
今回でいうと、油断。

今から紹介する場所もそうですが、同日に廻った場所でことごとく油断によるちょっとした後悔をしてしまいます。
例えば、社寺の境内にある巨樹と認識して向かうと「裏山」に位置している為、10分ほどの間を暗い林間を進まなければならず、挙句到着すると「熊!出没注意!!」と、ご丁寧に熊が襲い掛かろうとする実写写真を付けた看板があってチビリそうになり、護身用ストックの不携帯をくやむこと。
又は、道路からすぐの位置にあると確認し向かった現地では、今年の長雨の影響もあってか雑草が生い茂り、足を踏み入れ難い状態になっているものの、巨樹はもうその目の前。登山靴でも履いていればまだ向かうつもりになるものの、普通の靴では当日降っていた雨の影響でズブズブになってしまう上、あちこちに「マムシ注意!!」の看板も・・・
もう、えぇ加減にしてくれよ・・・とげんなりするのですが、自然の生き物の中に入るのは私の方なので、上記の状況を確認するべきなのです。

さて、そんな油断とともに訪れたのは島根県吉賀町指定の天然記念物である、「沢田の大杉」。


沢田の大杉 1


大杉手前の道路にある解説板。
樹齢800年とありますが、胸高周囲が7.2m。
巨樹を目の当たりにして大きさに圧倒されるものの多くは、経験上では胸高周囲10m以上のもの。

それからすれば、そこそこだな・・・・
そんな考えが先入観となり、この大杉を目にした時の驚きをさらに大きくしたのかもしれません。

大杉までは道路から小道を少し歩き、視界が開けた先にあるのは墓地。
そして、その背後に驚く樹形を呈しているのが、沢田の大杉でした。


沢田の大杉 3


この日は、しとしとと降る雨で空はどんより、そしてその影響で大杉の背後の林は吸い込まれるように暗い状態。
その条件が、異形の杉の存在感を非常に高めていたのは言うまでもありません。
対面して先ず、先ほどの胸高周囲のデータのみで判断できないことを実感。
太さだけではない存在感。
それが巨樹を印象付ける大きな要因であることはわかっているつもりですが、数字に左右されるのは人の常・・・

離れた場所からその見事な樹形を眺めるのももちろん良いのですが、やはり近くでその姿をつぶさに観察したいと思うのも人の常・・・

しかしながら上の写真の様に、大杉の周囲には膝上に達しようかという高さの茂みがあり、近づくための道がない。
いや、もしかすると違う場所から入られるのかもしれないものの、ムシ暑さと雨で探す気力がない・・・

悶々としながらカメラのズーム機能を使って、撮影をする。


沢田の大杉 4


写せば写すほどに近くに行きたい。
けれども目の前にはグリーンの壁・・・

雑草の中がどうなっているか分からないこと、そしてなによりもここに来る前に訪れていた場所に「草むら、マムシいるぞ!」の看板があり、自然の生き物大嫌い(出会いたくない)な私にとっては、目の前の雑草がマムシの巣窟に見えて仕方ないことが、足踏みをさせる理由でもあるのです。

とはいえ、もう少し近づきたい・・・えぇーい、かき分けて行ってやる!!
そう決心し、手持ちの傘(こんな時に限って、よそ行きの傘・・・)をたたんで除草棒代わりにし、足で踏み固めながら草の中を進んでいくことにしました。
そしてやっとたどり着くことが出来たその姿は、遠くから眺めるのとはまた異なる印象的な姿でした。


沢田の大杉 7


年月を経た暴れ杉というのか、神秘的な異形というのか。
幹の上部で横方向へ張り出した後に天に枝先を向ける姿は以前紹介した、岩倉の乳房杉と重なります。
そしてその乳房杉も、離島ではあるものの島根県。
乳房杉には近づくことが出来ませんが、沢田の大杉はその傍まで来ることが出来ました。

見あげる枝は、自然というよりも野性的と形容したくなるような様相。
しかしながら、よく見ると枝が剪定された跡があります。
折れたのではなく、人為的に切られています。
先端が枯れたのか、理由はわかりませんが管理の手が入れられているようです。

ということは、私が訪問した時がタイミングが悪かっただけで、普段はきちんと整備されているのかもしれません。
草むらも刈りこんであるのかもしれません。
そう信じよう。

沢田の大杉 10


大杉の周囲は完全に開けていて、空を見ても空間の占有率は100%と言っていいくらい。
周囲の竹に取り囲まれているのか、もしくは竹が入り込めないのか、見事なほどに独立した占有空間なのです。
そんな状況なので、天に伸びる枝の外側に向かって小枝が伸びて、そしてその小枝からまた枝が伸びる形で広がっていることが、異形を増幅させているとも感じます。

大杉に手が入れられているのは、墓地から見た大杉の奥に回れば分かります。


沢田の大杉 11


巨木を振興している状態でわかりやすいのは注連縄ですが、ここでは祭祀の跡でしょうか、写真の様な御幣様の飾り物がありました。
この手前には、竹と縄で造られた手製の簡易鳥居のようなものも・・・
先の様に、大杉の周囲は開けていてちょっとした「広場」の様になっているのですが、もしかすると祭礼というか地域の祀りごとがこの場所で行われているのかもしれません。

そういった事情は地域の方に聞くことが一番なのですが、この日は雨の中草むらをかき分けたことと、蒸し暑い上にマムシの恐怖。
そして写真からは決して伝えることのできないもう一つの原因によって、撮影後は一刻も早く車に戻りたい心境でしたので、情報収集する気にはなれませんでした。


沢田の大杉 14


左に立つ私と比べると、大杉のサイズが分かってもらいやすいですね。
幹の太さもさることながら、上部の分岐した大枝の広がりと太さの迫力は圧巻。
扁平であるとはいえ、大枝の一本ずつが通常の幹一本に相当するような太さなので、重力に反して頭上にあることが恐ろしくもなるほどです。


沢田の大杉 8


さて、サイズ感はこの比較で伝わると思われるものの、伝えることのできない早く戻りたい原因。
それは、この状況から想像に難くない「蚊と虻の襲来」です。

どこか余裕で大杉に持たれているように見せていますが、カメラをタイマーセットする時には顔周辺から足元まで、ブンブン・プ〜ンプ〜ンと寄ってくるのです。
大杉の隣に来ても、動くことをやめるといつの間にか吸血されている始末で、一秒たりとも動きを止めたくない状態。
しかし、動いていると雨に濡れているのか汗なのかわからないくらいにびっしょりと濡れてくる自分の汗でべたつく為、写真のアングルや明るさに集中できない。
普段であれば、刻々と変化する状況によって表情の変わる巨樹を前にすると、帰りたくなくなるものですがこの時ばかりは一刻も早く撮影を終えて戻りたい気分。

例えるなら、ラピュタの中心部に到達したムスカが飛行石を手にラピュタを手中にしようとしたとき、彼の周囲に虫が群がってきていたような状態・・・
もう、一心不乱に周囲を払いのけているような、そんな感じです(汗)。

それでも、戻り始めると別れが惜しいもの。


沢田の大杉 13


草むらにカメラをセットし、近づきながら上る時に見上げるようなアングルで一緒にカメラに収まりました。
想像以上に見事な姿と、撮影できた写真のアングルにちょっと自己満足を感じた沢田の大杉。

実際の私は、マムシへの警戒と虫たちの襲来に神経をすり減らしヘトヘト、服は汗でビショビショで満足と同等以上の疲れを感じていました。
その上、時刻は午後5時半。
今からの帰宅には5時間以上の高速道路走行が待っているのです。
事前情報との違いは油断でしたが、帰りの移動時間は巨樹を堪能する為の代償。

双方に疲れを感じながら、それでも心動かされる巨樹との邂逅を止めることはできない。
改めてそう思う、雨の夕暮れとなりました。


沢田の大杉 5


沢田の大杉所在地

島根県鹿足郡吉賀町沢田 指月神社東側
(もしかしたら、神社側から到達できるのかもしれないが検証していません。)

道路広い場所に駐車可能


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仰げば恐ろし・・・ 〜島根県浜田市 常盤山の杉〜


私は夏が苦手である。
暑いから?いや、そうではないのです。
暑さには比較的強い(むしろ寒さの方が強いけど・・・)方なのですが、夏に山に入るのが苦手です。

すがすがしくてとても良い、と思うのですがそれだけではなく、人間が心地いい季節は他の生き物にも心地いいわけで、蜂やヒルなどのお友達になりたくないものがたくさんでてきますから、苦手です。
しかし、もっとも苦手・・・いや、会いたくないものがいるであろうことも、非常に大きな苦手ポイント・・・


冬に巨樹を訪れる苦労は、今までの雪にまみれる記事を見て頂ければご理解いただけるでしょう。
何気なしに雪化粧に佇む私と巨樹、という構図になっているものの、その場に立つまでは携帯電話の電波の届かない山道をひたすら登る、つづら折れの山道を四輪ドリフト状態(FF車ですけど〜)の横滑りで駆け上がったりなどしながら辿りついているわけです。
寒そうに見えるダウンジャケットの下が汗だく、ということも珍しくありません(汗)。

それからすれば、夏に訪れる巨樹など心地の良いもの・・・と思うなかれ。
今回訪れたのは日本海側に細長く続く島根県。
高速道路がつながっていないために、東西に長い県の両端への行き来に数時間かかってしまうという、侮りがたい県なのですが、県民性はとってもフレンドリー且つ嘘偽りのない人たちばかりで、私の中での「癒し県」の一つでもあります
(笑)。

そんな島根県の西部、山間の金城(かなぎ)町に常盤山の八幡宮があります。
金城は、地元の水を販売するほどに自然の豊かなところ。
好き嫌いはあるものの、少し甘さと柔らかさのある「金城町の水」はお気に入りです。

巨樹巨木の事前情報によると、幹回り8mを超える杉が存在し、他にも杉の巨木があるとのこと。
幹回り10mを超えると相当なスケールですので、その姿に期待が高まります。

到着後の社殿迄にはすでに一本の太い杉がお出迎え。

常盤山のスギ 3

なかなか立派な杉!!とここで時間をとられてはいけません。
なにせ、この社殿の奥にはさらに大きな杉がいるのです。
早々にお参りを済ませて、どの「奥」にお目当てがあるのかを確かめます。

常盤山のスギ 10

もしや、あの社殿右後ろの??
いや、たぶんそうだ。
針葉樹の濃い緑の新緑!
あそこにめがけていくぞ!!、の前にありがたい事前情報。
これがないと、背が低いものは結構探すことになる場合もあるんですね〜。
ありがたや。


常盤山のスギ 2

掲示によると、社殿前を含む5本の杉巨樹があるとのこと。
巨樹や樹木に明るい方は、表記の「アシオスギ」に注目されることと思いますが、ここではその表記については、掲示板に倣うことにします。

もちろん、目指すはA株。

案内図通りに進むと、境内左奥に裏山へと昇るけものみちらしきものが・・・

常盤山のスギ 9

まぁ、道なんだろうけど普通に竹やら雑木やらで通れない・・・

うぅ〜・・・どれくらい進むのか。見る限り近いけど・・・と思いながらも進み始めると早速Cの杉に。
なかなか立派ではあるものの、意外と傾斜のきついけものみちで、しかも三脚を立てるにも良いアングルが取りにくい・・・ということで、写真なしで通過。
後で気が付くのですが、ここでもし「その痕跡」に気が付いていれば、もしかするとここで引き返していたかもしれません。


歩を進めると、気負う心とは全く異なり意外とあっさりとお目当ての杉に到着。

常盤山のスギ 4

手前と奥。
2本が適度なスペースを維持しながら立っています。
広葉樹の若木もちょろちょろと芽を見せる中、「一時代」を主張するような2本の杉。

ご丁寧に足元には「アシオスギ」の表記。

確かに、西日本とはいえ島根県の山間部は非常に豪雪。
数メートルの積雪も珍しくありません。
その地で生き抜くには、やはりアシオスギでないといけないのでしょう。

常盤山のスギ 1

アシオスギの例に倣って、異様な樹形か?!と思いきや意外とスラッとしていて礼儀正しい(笑)。
素直に伸びた、という印象を受けるそのままに、とても優等生的なアシオスギと感じます。

常盤山のスギ 6

人工林施業の上で、まず淘汰するべき対象として「暴れ木」があげられます。
詳細は割愛しますが、まっすぐ伸びているとはいえ、枝のつき方や成長度合いを見ると、巨木の多くは暴れ木であることが多いです。
失礼な話、巨木を木材にするならば樹齢を重ねているために、成長による癖は非常にマイルドではあると思いますが、林業で言うところの優等生ではありません。

しかし、その個性がまた、人を引き付けるのかもしれません。

この常盤山の杉も、想像よりもやはりスケール感はないものの、その立地であったりその姿のみせる雰囲気は、巨樹そのものです。

常盤山のスギ 5


写真映りを考えると、開けた場所にドカーンと構えているのが望ましいものの、「裏山に主」よろしく仲間とともにひっそりとたたずんでいるその姿は、応援したくなるような気持にさせます。

期待より大きくない、といっても実はこれくらいはありますよ。

常盤山のスギ 7


はい、十分大きい。太い(笑)。
足元の「アシウスギ」ではない「アシオスギ」看板がほんと、妙に気になる(笑)。

杉の巨樹、と考えるとまだまだその称号を得るには若造である、と言えるかもしれません。
それでも、ある程度まとまって生えていることや鎮守の森であることなどを考えると、非常に価値があると思います。

いつもなら、いろんな角度から撮影するものを、雑木と竹に阻まれて、一定のアングルしかありません。
ちょっと物足りなさを感じつつも、別れの挨拶を済ませ杉を後にします。

先程来た道を戻りながら、もう一度巨木たちの写真をとっていると、先程の杉への曲がり道に立っている看板表記Cの杉の幹に、なにやらキズが付いている。

常盤山のスギ 12

むむー!
なかなか人が入っていないのかと思いきや、こんな傷をつける人間がきてるのかしら?!
鎮守の森の樹木を傷つけるとは何事か!!っと、思いながらもう一度Cの大木を眺めました。

そしてそのまま無事帰路についたわけですが、その後にこのキズについて聞いてみると「あぁ、クマでしょうね。クマ。上にいませんでしたかね?!」との返事・・・
ん?クマ?!
熊?!

よく聞いてみると、クマは木のぼりし「クマ棚」を作るとのこと。
その際に登った跡であろうというお話で、聞いてすぐビックリ!
山の野生動物苦手な身にとっては、クマやイノシシは本当に会いたくないものたち。
それも、もしかすると頭上いたかもしれないとは・・・・・

ひえぇ〜。
思い出すだけでも恐ろしい。
見上げる恐ろしさを覚えた杉探訪。忘れられない場所になりました。


常盤山の杉所在地

島根県浜田市金城町波佐545付近 常盤山八幡宮の裏山内

駐車可能



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鳥居は神域への門なのか?!  岩倉の乳房杉(ちちすぎ)

わたくしごとながら、先月より不定期で木材組合の紙面をお借りして、巨樹巨木に関するコラムを持たせていただいています。
木材や樹種についてもそうですが、いつかは「紙の媒体」で、インターネットの画面からは見ることができない様々な人の目に、私の訪れた巨樹の存在が知られる機会を持つことが、夢の一つであったのですが小さな一歩を踏み出した、という感じです。
もう、このブログの中での巨樹巨木の記事は、完全に業務ではなくただ皆さんに、私が訪れた木々達から受けた印象をお届したいという想いだけで続いていますので、仕事の事を話のタネにしなくてもいい分、自由に書かせてもらっています。

さて、今回登場の巨樹は日本の代表的な樹種である「杉」なのですが、およそ杉とは思えない様な姿であるそれをお届します。


日本の杉巨木の中でもっとも有名なのはなんでしょう?!
おそらく縄文杉でしょうね。
屋久島の事を語る時には、必ずと言っていいほど登場する縄文杉ですが、実は当記事には未だ登場していません。
皆さんご存じだから、とか私がしょうかいしなくても、とか色々と理由はあるのですが、太さや大きさでは譲るものの、ある意味縄文杉よりも「パワースポット」めいているのがこの、「乳房杉(ちちすぎ)」です。

乳房杉5


茂る下草、他の追従を許さないかの如くの異形、開けた空の輝きを受けて後光のさしているかのような存在感、そして天を射抜いてしまうかの如くの枝々。
様々な巨樹巨木を目にしてきましたが、驚くものや圧倒されるもの、または絵になるようなものなど特徴を持ったものの中で、「神々しい空気をまとったもの」というのはなかなかありません。
その「神々しい空気」を感じることができるのが、この岩倉の乳房杉です。

隠岐の島の中心よりやや西、大満寺山を横断する林道の途中に位置するこの杉は、「隠岐の三大杉」といわれる「八百杉、かぶら杉、乳房杉」の一つです。
島を紹介するガイドブックや情報誌にも必ず登場する(と感じる)ほど、島を代表する存在でもあります。
気になる人のためにお伝えしておきますが、ほかの2本の巨杉のうちの八百杉は「伝承と人との身近さ」を感じる境内にそびえる杉。
かぶら杉は、以前に私を大いにビビらせた「高井の千本杉」と同じように、根元で別れた太い枝が天に伸びる「沢沿いの杉」。
もちろん、それらも見ごたえがあるのですが、一線を画すのが乳房杉。

乳房杉1

私が訪れたときは日光の加減で空は明るいものの、山肌が薄暗く感じ幽玄さを感じるような佇まいでした。
観光ガイドの写真などには、霧のかかった様子や雪を抱いた姿などが紹介されていますが、それが違和感なく認められてしまうのは俗にいう「パワースポット」だからでしょう。

人それぞれの感じ方ではあるものの、近年のパワースポットブームもあり、なにか特別なものを感じることができる場所。
それは巨木であったり、伝説の地であったりするわけですが、私自身はそこで何かが得られるから、という理由ではなく自分の中の何かが目覚めるきっかけにできるかどうか、自分次第だと考えているので、正直場所にこだわったり巨樹からパワーをもらうというようなことは考えていません。
しかし、この乳房杉をパワースポットと紹介したくなるのには理由があり、その理由こそ、ここを「神域」に感じさせる理由でもあるのですが、とりあえず乳房杉の詳細をまず・・・


乳房杉10


乳房杉の樹齢はおよそ800年。大満寺山の崩落岩に根を下ろす異形は、日本の杉を大きく3グループに分けたうちの一つ「ウラスギ」に入ると解説されていますが、納得のその姿。
横に張り出す枝は力こぶのようでもあり、銛(もり)の鋭さのようでもある。
そして乳房杉の大きな特徴の一つであるのがその名の通りの「乳房」。

乳房杉8


当ページの記事では「常瀧寺の大イチョウ」などに代表されるような大きな「乳」が垂れているのがそれです。
通常であれば、樹木の枝などは上空に向かって伸びるもの。
それが正反対の地上に向かって垂れるように伸びている。
銀杏(イチョウ)のそれを含め一般的には「気根」と呼ばれています。乳房杉の解説板にもあるように、空気中の水分を取り込む役目を果たしたり、樹木の幹の支持を助けたりするものといわれていますが、この乳房杉もこの「乳」をつかって空気中の水分を得ているといわれます。

しかし実際、この気根と呼ばれる下垂状の乳は「根」ではなく、葉っぱのない「枝」だと言われています。
下方向に伸び、根を出して新しい枝を形成するためのものだという定義がされています。
ストーリーとしては、「乳の出をよくするために煎じて飲んだ」というお話や、「空気中の水分を補給する」といったほうが夢があるものの、実際の植物たちの事情はもっとシンプルで、生き抜くためのまっすぐな理由だけなのかもしれません。
興味深い世界です。


乳房杉6


どうしても今回の写真はこのアングルに固定されてしまうのが、少し見どころを欠くところかもしれませんが、それには理由があって、近頃の巨樹所在地と同じく、乳房杉には近づくことができません。
縄がはってあり、また入り込んでいけないからこそ下草も繁茂し幻想的な空間を維持しています。
そのため、もう正面のこのアングルしかないのです。
もちろん、現地にいれば光の具合や感じる風、鳥のさえずりや木々の揺れる音などで無限にその世界は広がりを感じるのですが、写真下手の私にはそれを伝えることもできないのが未熟なところ・・・

しかし、このアングルしかないからこそそこにおのずと人が集まるのですが、ここに立つからこそ、乳房杉を訪れた人々はこの場所が世で言われるところの「パワースポット」であることを「確信する」ことになるのです。

そのパワースポットたる場所はこの鳥居をくぐることで、「神域」への到達を感じさせるのです。

乳房杉9


決してたいそうな鳥居ではないものの、登山することなく自家用車の窓からも眺めることのできるこの乳房杉を特別なものとせしめているのが、この鳥居とその先の「神域」なのです。
ここを訪れた観光客はまず、目に慣れない大きさとその姿にまずは驚かされます。
しかし、本当に驚くのは鳥居をくぐったその瞬間。


「え?何?!!なんかすごい涼しい・・・というか冷気が・・・!!」
「うわぁ!!!パワースポット!マジで!!」

私が滞在していた間にも、7組ほどのカップルや家族が来られましたがすべての皆さんがその得体のしれぬ「神の気」にさらされた驚きを口にします。
本当にここは神の世界、神域。その神の依り代があの乳房杉か・・・・


そう信じたくなるほど、鳥居の先は別世界なのです。
しかし、そこにあるのは不思議な世界や霊の力ではないのです。
皆が感じる冷気(霊気?)の正体は実は「風穴」です。
最初の解説板を見ていただくと表記がありますが、実はここは岩石が崩れてできた場所。

乳房杉4

そしてその岩石の間を、年中大気よりも冷たい空気が噴き出していることにより、真夏であれば驚くほどの「冷気」を感じるのですが、風穴と言われる仕組みをしらなければ、スポットクーラーの強烈な冷気に似た風が自分の足元近辺に流れてくるのを感じた瞬間、目の前の巨躯に畏敬の念と神の存在を感じずにはいられない空間になります。

乳房杉6


神の冷気を感じた後に眺める乳房杉は、鳥居をくぐる前の数倍のありがたみを帯び、より一層大きく感じるのです。
言わずもがな、島の宝。


全国に巨樹の杉かずあれど、数少ない「神域」を想わせる岩倉の乳房杉。
ここで感じるのはパワースポットではなく、紛れもない命の宿る世界と自然の仕組み。


乳房杉7


岩倉の乳房杉所在地

島根県隠岐郡隠岐の島町布施

各地図にも観光案内にも場所が記載されています。山道ですが十分に道幅があり、乳房杉前には大きな退避場(駐車場?!)があり、数台駐車可能です。道路沿いから眺めることができます。


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志多備神社 日本一のスダジイ


巨樹シリーズをお伝えしている中で、昨年に引き続きお正月の1本目は日本一をお届けします。

昨年は文句なしの日本一、鹿児島県の蒲生の大クスでそのスケールが私のつたない文章と写真でつたわるかどうか心配でしたが、今年の日本一であるこれも、さすがの迫力でした。

志多備神社日本一のスダジイ 10

島根県に存在する志多備神社のスダジイです。

最初にお伝えしておかないといけないのは、スダジイという樹種については実は現在は、このスダジイを更に上回る巨樹が見つかっているらしい(離島に存在するそうで、正確な所在地は明かされていないとか・・・御蔵島との噂が・・)のですが、それでも、一般で確認出来る範囲では文句なく一番です。

スダジイのようなシイという樹種は、巨樹の多さではスギ・ケヤキ・クス・イチョウについで5番目に数えられるといいますが、関西地方ではあまりなじみのない樹種だと思います。
特に我らが大阪に限って言えば、やはり薫蓋樟に代表されるクスノキが身近です。
大阪市内にも巨樹がみられるクスノキは堺市に入ると更に多く、堺市では巨樹と言えばクスノキと言うくらい(嘘。私のイメージです。)の多さです。
もちろん、その樹種に適した生息地があるからということが大きな理由でしょうから、大阪からの私にはとても珍しい樹木のように感じてしまいます。

そんなスダジイですが、みなさんご存じないでしょうが実はドングリのなる木です。
ドングリがなる木は、一般的には「ドングリの木」と言う風にいわれるのですが、ドングリは広い意味での「実」のことで、ブナ科の木材であるナラやカシ、そしてこのスダジイの実もドングリです。
もちろん、食べることもできますよ。

話を巨樹に戻しますと、スダジイでは2本が国指定の天然記念物に指定されています。
迫力からいくと、この志多備神社のスダジイがトップかと思うのですが、そうではなく、他のまだ私の会ったことがないスダジイが国指定になっているのです。

志多備神社日本一のスダジイ 4

訪れて先ずはじめに感じることは、やはりおそろしい・・・ということ。
「こわい」というよりもおそろしい。
自分の中の勝手な表現ですが、動かぬ話さぬとはいえ生物で、しかもこの様相とサイズです。
大きさは後で「昌志スケール」で見てもらいたいのですが、永い年月を経たその様相はやはり見るものを圧倒する雰囲気があります。
それに私が訪れた時刻はちょうど雲がかかっていたこともあり、少し薄暗かった為、その巨躯を直視したとき、近づくのをためらいました。
上の写真は程なくして陽がさし始めた時に撮ったものなので雰囲気はでていませんが、期待通りの驚きを与えてくれました。

幹廻り11.4mとされていますが、腰に巻いた藁の注連縄(本によると蛇を表しているものだそう。さすがは神話の地出雲。)が、横綱の化粧まわしを想像させるのか、余計に太くたくましく感じました。

志多備神社日本一のスダジイ 3

後先になりますが、この志多備神社のスダジイ。これだけの巨樹なのに車でのアクセスで簡単に訪れることが出来ます。
最寄り駅からは少し離れてはいるものの、車だと駐車場もお手洗すらも完備されていて、私のような「探して廻る」人間にはとてもありがたい設備(!?)が整っています。
いや、これだけの巨樹だからアクセスしやすいのかも。蒲生の大クスもそうですが神社などはやはり御神木として残っている為に、山中に赴くことなく拝むことが出来るのは幸せですね。

志多備神社日本一のスダジイ 1

さて、恒例の解説板ですがよく見ると「スダジイ(二本)」という表記になっています。
え?!二本もあるの?巨樹が?!と思ってしまいますが、最後にあるように参道の脇にもスダジイがあるのです。だから、何も知らないでいると、参道のスダジイを見て「え?もしかして、これが日本一のスダジイ?」と勘違いして帰られるかもしれません。
そりゃ、木の大きさというものがわからないと、スダジイというものは日本一でもこのくらいだと思うのも無理はないはずです。
参道のスダジイはこちら。

志多備神社参道のスダジイ

もちろん、小さいというわけではありません。
樹木としては大きい方ですが、このスダジイを超え境内に入り、向かって右奥の少し暗くなった辺りにお目当てのスダジイが鎮座していますからお間違いなく。

志多備神社日本一のスダジイ 8

巨樹、特に広葉樹ではまっすぐに上に伸びる樹幹というものはあまりありませんね。
それは針葉樹と広葉樹の外見の違いをそのまま表していますが、やはり巨樹のそれは異様なものです。
四方八方に伸びているというか、よくもこんな太い枝を伸ばせるもんだと驚くくらいに伸ばしています。
上から多いかぶさられるようなイメージがある分、その空間が暗く異様な雰囲気に感じられ、「おそろしく」なるのかもしれないなぁ、と感じます。

志多備神社日本一のスダジイ 9

もちろん、数百年の樹齢でこんな太い腕を支え続けるのは難しいでしょうね。支えが作られています。
もしかしたら、これがなかったら西光寺のスギのように伏条更新するのかな?!と寒冷地のスギ独特の進化を思わせるような思いにかられます。

志多備神社日本一のスダジイ 5

まぁ、それにしても立派です。
見上げると言うよりも、そこに存在する迫力を感じる、と言った方がいいくらいにどっしりと構えています。
それは周囲が林と一段下がった田んぼに囲まれていて、遠くから眺めることが出来ない、ある意味閉鎖された空間に巨樹と同時に存在しているからかもしれません。

周囲が開けていると、巨樹のそばを離れた瞬間にどこか客観的に見えると言うか、本の中の一部分のように、「眺める」感覚にとらわれるものですが、ここではこの空間は巨樹だけのスペースのようで、そこに立ち入らせてもらうようなイメージです。

志多備神社日本一のスダジイ 2

離れて撮影する余裕がないこともあるのですが、近づくとどこを写そうか迷ってしまうのはやはり素人。
この大きさを伝えたいと思う心と、もっと詳細に伝えたいと思う気持ちが空回りです。
そう考えると人間の目は素晴らしいですね。
一度に遠近双方を理解して、いいバランスで融合してくれます。
巨樹を撮るようになってつくづく感じることの一つです。
上の写真も、撮影した時はもっと詳細に幹を伝えるつもりが、今見ると一部分を写しているのみというような、なんかはっきりしないものになってしまっています。
巨樹の撮影は、本当にそのものを表現する難しさを痛感することの一つです。

志多備神社日本一のスダジイ 7

他の巨樹にも見られるものですが、こういう「苦悶の表情」のようなどうすればこのような姿になるのかと訊ねたくなる部分があるのもやはり時が生み出す妙。
本当に苦しかったのか、外的な影響かはわかりませんが、素直に伸びる幹もあれば、主幹がこの様に凹凸まみれのものもあり、これこそが生きているというものかと改めて感じるのです。

一通りスダジイの周りを一周すればお待ちかねの昌志スケールです。

志多備神社日本一のスダジイ 12

どうだぁ!!
ちょうど光のシャワーが降り注いでいるような、そんな瞬間です。
スダジイが作り出した巨樹の世界に足を踏み入れた人間に、下界へ戻る道が開けた瞬間のような・・・

苔むした土に囲まれたスダジイは、湿り気のある空気の中で独特の雰囲気を放ちながら私を迎えてくれていました。
近づいてみては離れ、離れては近づいてみたのですがこのスダジイは日光の当たる角度やその明るさ、そして見る位置によって様々な表情を見せてくれているように感じます。
たぶん、だからこそついては離れて何周もぐるぐると周りを廻りたくなるのかもしれません。
さっき見た表情とは違う、さっきの写真ではこれが撮れていたか?!
そんな想いがなかなか離れず、この光のシャワーに乗り遅れてしまいました。
いつもながら、このままずっと眺めていたい様な気持ちだったのは言うまでもありません。

スダジイという、大阪ではなじみの薄い樹種の日本一。
しかと目に焼き付けて、神々の国から帰阪してきました。
時間が許せばまた会いに行きたい、そんな巨樹でありました。

志多備神社日本一のスダジイ 11


志多備神社のスダジイ所在地

島根県松江市八雲町西岩坂1617辺り

川沿いの道路傍に駐車場とお手洗あり。案内板も設置されています。



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ゆらゆら揺られてなに想う 浄善寺のイチョウ


私が住む大阪府の街中にある樹木で一番目につくもの、といえばやっぱりイチョウでしょうね。
堺市の方まで行くとクスノキの巨樹が街中にポツポツあって驚きますが、こと街路樹ということでいくと、大阪のメインストリートである御堂筋にならぶイチョウ並木は見事なもので、某大阪の信用金庫のシンボルマークに採用されるのも頷けるほどの認知度だと思います。

しかしながら、イチョウが注目されるといえばやっぱりこの季節から・・・
綺麗な黄葉を見せる姿はとても心地がいいものですし、見慣れた風景が全く違った印象に変わる瞬間で、時間に追われながらも季節感を感じさせてくれる、ほっこりとした風景です。
また、季節の料理に活かされる銀杏も日本ならではの様に思います。

しかし、そんなイチョウもところ変われば巨樹巨木がわんさかあるもんです。
といいましょうか、一時は絶滅したとまで言われていたこの樹種が、こんなに日本で巨木になっているなんて、と驚く事がある位にいろんなイチョウの巨樹がいます。
今まで紹介した中では河内の流谷八幡宮のイチョウ小国の下城の大イチョウ一言主神社の乳イチョウ亀山市宗英寺のイチョウなどがありますが、どれも個性的であり立派です。

イチョウの巨樹の見どころは「乳」と呼ばれるものです。
一言主神社のイチョウは乳イチョウと言われる位たれているのですが、これは気根という内部にでんぷんのたまっている部分です。
そしてそこには必ず、この乳を削り取って煎じて飲むと、乳の出が良くなった・・・という言い伝えが残っているのです。
事の真偽はともかく、そういった言い伝えが残るほど、人々に愛されてきた木である証拠ですよね。
だからこそ、街中に巨樹が残るのかもしれません。
因みに、イチョウのあれこれについては今までのイチョウの記事や一言主神社や下城の大イチョウを紹介した「イチョウ サイド(再度)ストーリーシリーズ」を参照ください。

さて、今回は本当はイチョウの見どころである、綺麗な黄葉をお伝えするはずだったのですが、残念ながら、今回も(!)葉っぱ無しです。あしからず・・・
訪れたのはシーズンオフでして・・・
それでも紹介したくなったのは、その場の雰囲気がすごくのんびりとしていたことが忘れられないから、です。

浄善寺の銀杏 2


巨樹巨木によくあるような、うねるような幹や先に挙げた目立った「乳」はないのですが、天にむかってまっすぐに伸びている幹がとても印象的なこのイチョウは浄善寺のイチョウ。

浄善寺の銀杏 1

とりたてて非常に大きい、というわけではないのですが境内にニョキッと立っているそのそばに、昔ながらのプラスチックのベンチ(それも結構きれい・・・)があったりして、なんか和みます。
保存の観点からいえば、厳重に近寄れないように柵をするなどの措置が見られるところもありますが、そんないかめしい雰囲気は一切なく、ちょっとベンチに腰掛けて先輩イチョウに人生相談でも始めたくなってきます。

浄善寺の銀杏 4


案内板にある様に、このイチョウは少し独特な遺伝子を持っているようです。
それも福岡県と韓国にあるイチョウそれぞれと同じ遺伝子をもっている、というのです。
福岡はまだ日本ですから理解できる?けれども韓国のイチョウとの関係は?!
なぞですねー。
どちらかが持ち込まれたものなのか、それとも同じ一つから分かれたものなのか?!!
やはり歴史あるものは興味深い点も多いです。

浄善寺の銀杏 5


それにしても、上の写真の様に、太い幹が出てくる地面の近くから大きく花が咲くように幹分かれし、それでいてまっすぐ上に向かって伸びるその樹形はやはり独特なものがあります。
それに乳が垂れていない事から余計にその樹形の美しさに目がとまるのでしょう。

浄善寺の銀杏 6

先程、イチョウの近くにイスが置いてあるといいましたが、そのイスの近くにブランコがあります。
あれ?!どこにも金属のステーのようなものがないけれど・・・
もちろんですね、イチョウの大きな幹からロープを下げられたブランコです。

これがなんとも心温まるというか、ほんわかします。
ベンチに腰かける男の子に、ブランコをゆらゆら揺らす女の子が話しかける・・・
う〜ん、ロマンチック!
訪れた時間が黄昏時だったこともあり、一人そんなことを想像し、自分の青春時代を振り返ってひと時目をつぶるのでした。

そうやって一人のほほんとしていたのですが、気がつけば近くに奥さまが・・・
どうもお寺の奥さまのよう。
挨拶をして少しイチョウの話をしました。
大阪から来ていますというと、ニコニコとして笑顔を返していただきました。
これも巨樹探訪で心温まる瞬間。
基本、人との触れ合いというのはいいものです。


浄善寺の銀杏 7


そんな事を考えられる位、どこかいい雰囲気の浄善寺。
もちろん、巨樹にも惹かれるものがありますが、その周りの環境も含めて印象に残ったのがこの浄善寺のイチョウです。
葉っぱはなくとも、黄葉していなくてもそんなこと関係無い、と思わせてくれる存在感でした。
もちろん、旺盛に葉を茂らせているところも見てみたい気もするのですが・・・

そうこう考えていると日も傾いてきました。
離れるのが心残りなのはいつも同じですが、やり残したことが一つ。

浄善寺の銀杏 3

女の子でもなく、つれあいもいませんが先程のブランコに腰掛けてイチョウと記念撮影です。
何を話したかは・・・内緒です。
青春の思い出話でも・・・・・


浄善寺のイチョウ所在地


島根県大田市三瓶町池田2132

境内に駐車可



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荒波を耐えてしのんで珪化木(けいかぼく)


海といえば、穏やかで生き物を育む優しい場所の様なところもあれば、荒れ狂う大波が押し寄せる力強くも人間を凌駕する勢いを感じることもありますが、そんな波のなかを何千万年耐え続けてきたのだろう。

巨樹を追いかけたりしているとたまに、巨(おお)きくはないけれどもたしかに稀少な木であるものに出くわしたりします。
埋没林施設(魚津小豆原)や展示されている埋没材などもその一つですが、それらと同じように数千年、数万年いや数千万年というもういつの時代かわからないくらいの年代の木が出てくることがあります。
神代木をも超える、はるかかなたの時代から存在する木。
それは珪化木や木化石

火山活動の土石流に流されて形成される、というようなところは神代木と同じものですが、はっきりとした違いは両者木であるけれども、珪化木は「木の組織が石にかわったもの」であるというところでしょうか・・・
琥珀(こはく)という、木々の樹液が化石になったものが宝石と同じように扱われますが、どちらかというとそれにちかいのかもしれません。
木質部を失う代わりに石化していく・・・
そんな珪化木も神代木と同じ様に日本の様々な場所で発見されています。
なかでも岩手県の根反の大珪化木が有名な様です。(ほん近くまで行ったのですが、大雪で寸前にてあきらめたところ・・・もう一度行きたい。)

さて、そんな珪化木は海辺や川底から見つかる事が少なくありません。
押し流された影響でしょうか?
こんな形で残っていたりするものです。

島根県波根西の珪化木 10
























こんな海岸の、それもおそらく波が打ちつけるだろう所にまさしく「突き刺さる」かの如く海中から岩場に向けて聳え立っています。
これが島根県波根西の珪化木です。

島根県波根西の珪化木 4














このように根元(?!)は水中で、どこまで伸びているのか定かではなく、もう片方はどうしてこんなところに上手く残っているもんだと思わせる位置にはまっています。

島根県波根西の珪化木 7














覗きこんで一瞬、嘘やろぉ?!といいたくなるくらいにすっぽりはまっているんですが、人為的にすら感じるくらいに見事です。

この波根西の珪化木は、1800万年から2000万年前の火山活動の土石流により押し流されたものだそうで、長さは目視できる部分だけでも5m、埋没部も含めると10m以上といわれていますが、実はこのあたりにはこの一本だけではなく、海底には波にあらわれた珪化木がゴロゴロとしているそうで、大昔の豊かな森とそれを取り巻く自然活動のすさまじさを感じるというものです。

島根県波根西の珪化木 12














水中に近い部分はなんとなく木のものという感じを残している様に想いますが、なにせ周りがいわばだけに、石にも見えてきます。

この波根西の珪化木、島根県大田市の海岸にあるのですが何せ海岸だけに事前に正確な位置がわからず、迷うのでは?!と心配しましたが途中からは看板もあり、少し歩く事になりますが、間違うことなくたどり着きました。

島根県波根西の珪化木 1














海岸線沿いの集落にこのような看板があり、この裏手か?!と思わせるのですが、これよりももう少し奥まで車で進みそこからは徒歩です。

小さな案内板の通りに進むと墓地を横目にして綺麗な遊歩道が見えます。
それを行くと海岸にたどり着く事が出来ます。

島根県波根西の珪化木 2





 この下に珪化木ちゃんが・・








この景色を見て一瞬、もしかして足を海に突っ込んでいかないと行けないところ?!と少し心配になったのですが、満潮でなかったこともあってか、近くまでたどり着く事が出来ました。

階段途中には珪化木の案内石碑があります。

島根県波根西の珪化木 3














こんなんがあると、この近くにあるのか?ときょろきょろとしてしまいますが、お目当ての本体はこれよりもまだ下。階段を降り切った、水辺にあります。

島根県波根西の珪化木 14














洞窟の様に穿たれた部分の上部にもたれかかり、中央部が少し細くなってはいますが、その太さはなかなかのもの。
資料によると、この珪化木はブナの木らしく、日本海が形成されたころの火山活動によって運ばれたものだそうです。

島根県波根西の珪化木 9














島根県波根西の珪化木 7














所によっては木を感じさせ、その他はやはり木の形をした石ですね。
こういった部分が出てきたのも海の波による浸食で、少しづつ岩が削られるなかで、周囲の岩石よりも珪化木の方が硬かった為にこのような形で出現したとも言われています。

どちらにせよ、想像もつかない時間の流れの中での産物。
こうやって数千年前の木に対面できるだけで幸せです。

島根県波根西の珪化木 6














因みに、大きさを比較するとこんな感じ。
念の為、私ではありません。地元のおっちゃんです。
先の石碑のまわりを一所懸命探している私に、まだ下やで、と教えてくれたのでついでに人間スケールになってもらいまひょ。

島根県波根西の珪化木 11














上の写真は決死の覚悟(結構水際にビビってしまう私・・・)で腕を伸ばして珪化木の近くから撮ったもの。
水面の近くからのアングルです。

全てが同じ様な写真になってしまっているのは、撮影場所が限られることによるものです。
遊歩道を下りてくると珪化木の隣にでますが、反対に行くには遊歩道を乗り越えて崖地を降りるか海の岩場を移動するかですが、こんなところで万が一があって迷惑をかけてはいけません。
訪れる皆さんは無茶をしないようにしてくださいね。

ここ以外にも近くに仁摩の珪化木もあるのですが、そちらはなかなかの難所の様で、この時は行くことをあきらめました。
もし訪れる事が出来れば、そちらと小豆原埋没林公園を合わせてまわれば、ロマンあふれる樹木の世界を知ることが出来るのではないかと思います。

島根県波根西の珪化木 8















波根西の珪化木所在地:島根県大田市久手町波根西2137近辺の海岸
駐車場、基本的になし。路上駐車になるので、邪魔にならない場所を探しましょう。



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