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木の床の不思議 −香り・嗅覚編−


木の虫、戸田材木店戸田昌志がお届けする「木の床の不思議-五感編-」も、今回の香り・嗅覚編でひとまず最終回ということになります。

五感なので、数としては五つと決まっているわけですが、人間の持つその五つの感覚が、実はすごかったりするんですねぇ。


よく、犬の嗅覚はとても発達しているといわれます。
人間に比べ、1000から一億倍(最大数は酸臭に関してだそうですが。)位すぐれているとか・・・・
でも、人間だって意外と凄いんです。

実は、人間は数万種類のにおいをかぎわけることができるそうです。
数万種です。
感覚の鋭敏さや、個人差はあるとしても、そんな能力を持っているということです。

当然、におい・香りには好き嫌い、得手不得手があり、好きな香りには「癒し」を感じ、他方嫌いなにおいには「くさい」と感じてしまいます。
では、木の香りは人間にとってはどうなのでしょう。


ある実験で、杉・桧・松・樟(くすのき)・ユーカリ・榧(かや)その他数種の香りを好き・嫌いという基準で分けてもらうと、杉や桧は圧倒的に好きな香りとする意見が多いそうです。
樟脳の香り(私はメンソレータムの香りと形容していますが・・)で有名な樟(くすのき)でさえ、好きという意見が嫌いという意見を上回っています。
一つの例外、榧(かや)の木の香りを除いて。
榧は日本産香木として(または、その彫りやすさや木目から)、仏像彫刻材として、かなり古くから様々な文化財に使用されてきているのですが、現代には合わないんでしょうか・・・

木の香りの元は木の持つ精油成分によるところが大きいものです。
当然、一つの樹種で50種類以上の精油成分を含んでいたりしますから、厳密にどの精油が良いというところの話ではないんでしょうが・・・

しかし、木材の香り=精油成分はただ香るだけでなく、様々な効果を発揮することが実証されています。
例えば、防虫・防カビ・抗菌・抗ダニ、そして消臭・安眠などです。

杉無垢フローリングのところで杉の香りの持つ安眠効果をお伝えしましたが、木は人間にとって好ましい香りを発散してくれています。
桜餅の葉から発するクマリンという甘い香りの物質も抗ダニ効果で知られています。
当然、科学的に合成した「薬」ではないので、強い作用や、即効性は薄いかもしれませんがその分、人の体に負担のないような穏やかな作用が期待できます。

その木の持つ香りが注目され、また、森の中にいると癒されると感じるフィトンチッド。
これも元々は、木々が自らを微生物から守るための物質で、木々をおびやかすものにとっては有害なものですが、人間にとっては「有益に」働いている成分です。
森に入っても、動物の死骸などの腐敗臭や、いやな香りのしないのはフィトンチッドのお陰だそうですし、刺身についてくるシソの葉や、お寿司屋さんの冷蔵ケースの中の杉やヒノキの葉も、これらの効用を期待したものだそうです。

また、昔から「総ひば造りの家には蚊がよらない」といいますが、これも精油成分によるもので、ひばはヒノキチオール成分(β-ツヤプリシン)を含有していることで特に有名です。(ここでの「ひば」は青森ひばであって米ヒバではありません。)

暮らしの中では箪笥などの家具類。
この引き出し材などに樟が使われていることがあります。
樟脳の香り成分を利用した防虫作用を期待してのものでしょう。

もともと、広葉樹は一般的に針葉樹に比べて香りがしないので、家具に使用される理由のひとつでもあります。

針葉樹で言うと、「さわらかな」香りのするサワラ材(主にα-カジネン、σ-カジノール)はその言葉通り、さわらかな香りを発することから(木取りしやすい事もありますが)御櫃に使用されますし、におい移りを嫌う食物加工用道具のなかでも、桧の香り(主にσ-カジノール他)は例外とされていますので、精油成分による抗菌作用も伴ってまな板に重用されます。
因みに、桧の抗菌作用の元となるのは一種の精油ではなく、各種成分の相乗効果によるもので、それは有名なヒノキチオール(桧にはごくごく微量しか含まれない。)単体よりも抗菌作用は強いそうです。

シリーズの中の「味覚編」でも触れましたが、ワインの樽に使われるオーク(なら)材や、日本酒の樽となる杉などは両社とも目的や使い方などは違いがありますが、どちらもできた原種に適度で何とも言えない香りを付けてくれることで重宝されています。
特にオーク樽は洋酒やワインにはなくてはならないものです。
ステンレスタンクも当然優れていますが、独特の樽香を味わいたいとなると、樽にこだわって醸造したワイナリーやメゾンを探さなくてはなりません。
ワインのそれも、オーク材に含まれる物質の働きによるものですが、これも人為的に添加するものではなく、やはり天然で産地にもこだわったものが使用されています。
私も昔は「●○ワイナリーが使用していた中古樽を買って醸造した・・・」なんていう宣伝文句に惹かれて、ずいぶん購入したもんです・・・
樽の材質による香りや味わいの変化は、それくらい大事な判断材料にされているということです。

脱線しました。


これらがあらわすように、様々な形で私たちの生活や身の回りにある木の香り。
ですが、それが今は「身の回りにあった・・・」と形容しないといけないくらいに少なくなってしまったと感じます。

私は昔から、実家もそうですし弊社社長の建築する木造住宅に親しんでいましたから、家は木の香りがするものだと思っていましたが、実際現在の住宅は木の香りがほとんど感じられません。
様々な建材で覆われた木材はその香りを発することもできていないのかなぁ・・・と感じてしまうほど、「木質感」はあっても無垢の木の存在感はありません。

私の自宅にいらっしゃった方たちが「木の良い香りがしますね。」とおっしゃるたびに、今の木造住宅の香りのなさを思います。
木材の質感が好きではない方や、好きであっても特有の香りが体に合わないという場合も稀にあります。
中にはアレルギー反応が出たりすることがあります。純天然成分であってもです。
ですので一概には言えませんが、出来ることならば、人生の大半の時間を過ごす住宅に、優しい香りを運んでくれる木材を取り入れたいものです。

なんでも天然、天然が一番ではないですが五感を刺激し、癒し、なごませてくれるもの、それが、天然資源であり、また生き物である木材がくれる大きな贈り物です。

その恩恵を上手に活用し続けられるのが木造住宅だと思います。
その中において、建材ではなく木々がのびのびと呼吸しているかのような空間を作っていけば、人間ものびのびと暮らしていけるのでは?!と思っています。

五感に訴える、五感で感じられる木材を紹介してきたこのコラム。
木材にはまだまだ書ききれないくらいに、沢山の素晴らしい長所があります。
使ううえでの幾分かの短所を受け入れれば、長所がより素晴らしいものとなっていくに違いありませんから、これから木材の事、木造住宅の事を考えている方は、近くの頼れる!木のわかる材木屋さんに相談してくださいね。
きっと、「帰りたくなる家」、「友達を呼びたくなる家」、「自慢の木の家」ができること間違いないと思います。

そんな木造住宅が増える日まで、もっと頑張って普及活動いたします。

木の床の不思議シリーズは下記からどうぞ


触角編
視覚編
聴覚編
味覚編



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