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悔やまれる巨樹倒木を訪ねる 〜日吉神社のタネスギ〜

異常気象と思われる現象が度々起こる近年。
大雪ののちの暖冬、車軸を流すが如くの大雨、そして住宅を倒壊させるほどの猛烈な台風。

私が小学生の時には、台風は学校が警報で休みになる「休日」のようななものでした。
不謹慎極まりない表現ではありますが、当時の大阪には台風の影響は殆どなく大雨での被害すらも覚えがありません。
もちろんそれらは治水事業の恩恵や、たんなるその時代の気候状況だっただけなのかもしれません。

近年は、大阪でも今までに考えられないような猛烈な風を吹かせるものや、降りやむことのない様な雨をもたらす台風が上陸し、甚大な被害をあたえています。
その被害を樹木に関して考えると、昨年の大雨の影響で倒木したとされている岐阜県の神明神社の大杉の様に、私が敬愛する巨樹たちにも及んでいます。

巨樹巡りをしていると、枯死して伐採されたものに出逢うこともしばしばですし、倒木の危険を前に伐採されてしまったものにも出逢います。
先の大杉も、千年を超える樹齢のもので、倒木の前に対処が必要だったような声も見られましたが、どうしてもその姿を拝みたくなる私には、巨樹を前にしてどのようにしていけばよいのかの判断はできません。
そして樹勢に関係なく倒れてしまうものもあります。

猛烈すぎる台風の影響で、巨躯を横たえてしまった大杉に先日逢いに行ってきました。
わざわざ倒木したことを知っていて行くのは、在りし日の姿が美しいものだったからでもあり、倒木後の「行方」が知らされているため、いまはなきその場所を見ておきたかったからです。

逢いに行ったのは、日吉神社のタネスギ。


日吉神社のタネスギ 6


拙記事では紹介してはいませんが、とても美しい樹形であり見上げるだけで、秀逸な木材になるであろうことを想起させるに十分な出で立ちの、素晴らしい大杉でした。
巨樹、それも境内にある御神木のような存在である大杉をして、秀逸な木材になるであろう、などという不躾な思いを巡らせるのには理由があります。

それはその名称にもある通り、その杉は林業において大切な存在である種を得るための母樹「種杉」であったからです。

詳細は、私が担当させてもらっている業界紙にての「材木屋の巨樹木甦」に記載していますが、京都府での植林事業の指定母樹になっていたのですから、秀逸と感じて当然。


材木屋の巨樹木甦 第五回 京都府南丹市 日吉神社のタネスギ


その大杉が、関西国際空港にも甚大な被害をもたらした2018年の台風21号によって倒木した、という残念な情報があり、できるだけ早く確認に行きたいと考えていました。
しかしながら、すこしした後に倒木し「丸太」となった種スギが原木市にでて、落札されたということをニュースで知り、倒木がどうなるのか?!という心配がなくなったことで、急ぎ足での訪問ではなく落ち着いてから向かうことにして早2年半。
もうその跡形もないものかと思いながら向かった現地。
そこには切り株となった母樹が残されていました。


日吉神社のタネスギ 1


木材や林業に従事する方以外は、この切り株の様子をみてどのように感じるでしょうか。
先に書いた、秀逸な木材になりそうだという意味がお分かりになるだろうか。
想像の通り、大きな芯腐れもなく通直で節が無く、癖のない素直な大木。
材木屋として付け足すならば、この切株に一番近い部分は芯材部分が多く辺材の少ない、良質な木材となることは見ての通りですし、その辺材ですら成長が遅い為に細かな糸を引いたような木目であることが推測されます。
辺材部分は、苔が生えて色の変わっている部分です。
芯材部分は、芯材物質という腐朽などに抵抗する成分が蓄えられるために、倒木したとしてもすぐには腐朽したり他の植物が生えることは稀です。
そう見ると、辺材の少なさがわかるでしょう。

もちろん、成長点である40mほどの上空だった部分とは異なることを付け加えねばなりませんが・・・

その成長点が存在した部分は、いまではぽっかりと穴となり青い空から光が差しています。


日吉神社のタネスギ 2


母が居たその場所が、次の世代に開かれた。
そんな穴。
山中であれば、次の種などがその場所を獲得するのか周囲の種が成長するのかという、生存競争が始まるところですが、ここは境内。
まるで最近無くなったかのように、静かに大杉のみが去ったような印象でした。


私が倒木しても訪ねたかった理由を一つ補足すると、連載している材木屋の巨樹木甦の中に掲載している為、皆さんにお伝えしたその後を知っておきたかったから。
日本全国取り上げている木々のその後の全てを追うことはできませんが、自宅から90分ほどで到着する当地ですし想い出深い母樹ですから。


共に納まった、在りし日のタネスギ。

在りし日の、日吉神社のタネスギ 1


太さもさることながら、空にまっすぐ伸びた樹形。
迫力を与える異形のスギも多い中で、美しい姿を意識させるものはなかなかありません。
今回は、そこの立っていた時と同じ場所から現在のその姿を眺めました。


日吉神社のタネスギ 3


やはりその存在がずっと、その場所に在ってほしい。
改めてそう思ってしまいますが、いかなる状況であろうと倒木してしまえば様々な被害が出ます。
そして数千年生きるとはいえ、樹木も永遠ではありません。
その最後が、天災のような台風であったということ。
そして、周囲には住宅もなく社殿に大きな被害を与えることもなかったことは、非常に幸運であったこと。


日吉神社のタネスギ 4


私が巨樹に逢いに行くのは、心が動かされるからでもあります。
テクノロジー化し、土や緑が無くとも生きていけるかのような時代ですが、自然とは離れることができず自然の中には偉大な何かがある。
ぼんやりとしかわからない、感情としか表現できないエモーショナルなものがそこにある。
白黒や良し悪し。
そんな二極化したものではない、共存と共生。そしてその中でもしたたかに行われる生存競争。
その輪の外、生物の頂点から眺めているような人間も実は、地球という同じ環境の中にいること。

御神木や様々な想いのある木々を大切にしていく気持ちも忘れたくないものですし、被害をもたらす結果を無視することもできない。
どちらかの判断は非常に難しい問題ですが、やはり、畏敬の念を忘れることなく自然を感じる存在として巨樹に接する場所があってほしい。
そう思います。

人との関わりの多い里の巨樹。
その一つが役目を終え、木材となって数年後に第二の命がどこかで見られるようになったことを、当地に訪れることのできない皆さんに伝え、今回の倒木巨樹訪問を締めくくりたいと思います。


日吉神社のタネスギ 5


旧)日吉神社のタネスギ 倒木所在地

京都府南丹市八木町神吉西河原16-4


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コメント
1. Posted by D   2021年06月13日 23:36
5 死しても活かされる。捨てるところがない無垢材の世界。。戸田さんの活躍を楽しみにしてます。いつもありがとうございます。
2. Posted by muku-mokuzai   2021年06月14日 20:51
こちらこそ、拙記事をご覧いただきありがとうございます。
倒れた母樹のその後が、お一人以上に響いたこと、とてもうれしく思います。

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