親子杉?!否、分身杉! 〜伏条更新の見本 切山の大スギ〜
日本の樹種のお話で、ある意味話題が尽きないと思うのが杉。
様々な文献で「日本固有種で」とか「日本の隠された宝」とかいう枕詞で始まる、とっても愛されている樹種。
一方で、花粉症の元凶であるとか、人工林が増えすぎて「害木である」と言われているとか・・・
その他に、よく話題になるのが「オモテスギとウラスギ(アシウスギ)」。
私も今までにいろんなところでお話ししてきましたし、簡単に言うと日本海側に多く生息し伏条更新するものがウラスギということを言ってきました。
こういうと非常に分かりやすく、ある意味当たらずも遠からずですが、植物ってそんなに簡単に分けられるものでもなくて・・・
日本海側に近くなると気候も雪が多く深くなりますから、枝が地面について伏条更新するウラスギが存在する、という誠に信じられる理由で説明してしまうのですが、今回紹介するスギを見ると疑問が生まれてくるのです。
高く太くそびえるのは、切山の大スギ。
きれいに伸びた幹と、若干卵型にみえる枝の付き方。
遠くからでもそれと分かる杉の巨樹です。
周囲にほとんど樹木がないことと、正面?!が広場のようになっていて、その姿は眺めたい放題。
そのため、少し離れてみるとなおさら立派で、近づくと大きさ太さを感じることができるという、一粒で二度おいしいタイプの杉です。
いや、これに関しては二度ではなく三度おいしい、が正解かもしれません。
愛知県の指定文化財である切山の大スギ。
樹齢1000年を超えるといわれるようですが、今回注目したい「三度おいしい」ポイントは大きさや樹齢ではなく、その本体をよく見てもらうとわかると思います。
全体写真の大スギの右を見てください。
石碑のもう少し右に、もう一本小さな杉が育っているのが見えるでしょう。
実はこれが大きなポイントです。
その解説は上の写真の解説板にもあるように、「アシウスギ」であること。
ご存知の通り、アシウスギは雪の多い日本海側に分布するといわれる種で、垂れ下がった枝が地面について、そこから根を出して独立した別の主幹を構成するという、樹木というか竹のようなイメージを持ってしまうものです。
そのアシウスギの特徴そのままを、巨樹としてみることができるのが非常に珍しいのではないかと思います。
奥に見える二股に分かれた枝の先が、いったん地表についてその先に大きな根曲がりを作りながら、空に向けて伸びているのが、それです。
それもかなりしっかりとしたスギとして成長しつつあります。
写真を見ても分かる通り、周囲にはその成長を阻害するような存在も殆どありませんし、親木(?)のほうが文化財指定されていることで、この子(?!)もすくすくと成長できることと思うので、50年後くらいには双方並び立って「切山の親子杉」なんていう名称に変わっているのかもしれません。
その時には、解説板も「実はこの2本のスギはもともとは同じ樹木であり、アシウスギという樹木の典型である伏条更新という状態を・・・・」なんていう風に書き換えられるかもしれません。
それもある意味楽しみです。
しかし、たまに見かけますがどうしてこのように激しい集中枝なのか、それも枯れ枝の様に見えるものがおおいものの、それぞれも太さがありメデユーサの頭のようにニョロニョロと動き出しそうに見えます。
枝をたくさん出すことが出来たのは、周囲の環境によるとことも大きいと思いますが、これらが「垂れ下がる」というよりもむしろ、「地表を目指して伸びている」様に感じるのは、私だけでしょうか。
まるで意思があるように、いやきっとそうに決まっている。
自分の存在を残す方法を少しづつ遂行している、そう見えます。
しかしながら、その状況を目の当たりにして理解はできるものの、疑問も残る。
それがキーポイントです。
先に書いているように、伏条更新が特徴的なアシウスギは「雪の多い日本海側」に分布するはず。
もちろん、私も多くのアシウスギを彼の地で目にしてきました。
と言いながらも、この切山の大スギがあるのは愛知県。
完全に太平洋側。
えぇ?!どうして?
アシウスギなのに太平洋側?!という疑問が出るのです。
それはどういうことか。
これ、完全に特徴的なアシウスギではないのか!!
そう思ってしまいます。
スギを大きく分類するときに使われる「オモテスギ・ウラスギ」という呼称のウラスギと同義として扱われるアシウスギですが、スギという樹種の多様性(変種や地域ごとの違い、栽培品種など)を考えると、完全に同意ではないはずなので、解説板にあるその表示は「伏条更新する種である」ということを指しているのでしょう。
実際に、オモテスギではこのような性質を表す個体は見られないのかもしれませんが、枝を使って増やしていくことは可能なはずなので、決してオモテスギは枝から更新することはない、とは言えないでしょうから、違いはある中で、伏条更新の性質を顕著に表しているものであり、日本海側にしかありえない、ということをいっているわけではないのだと推察します。
もちろん、全ての人がこんなことを想像するかどうかは分かりませんが、思い込みが決めつけになってしまっていろいろな考え方や見えるものを見えなくするのかもしれないな、と自戒する機会になりました。
大スギの傍に立ち、その枝が異なる命を生み出している直下にいると、命の流れの中にいるかのよう。
お母さんのへその緒から、大切な栄養をいただく赤ん坊の様に。
普段なら、異様にすら感じるその「アシウスギの触手」すら、温かく感じてしまう、不思議な感覚を覚える場所。
それがこの、切山の大スギでした。
切山の大スギ所在地
愛知県岡崎市切山町大ゾレ
広場に駐車可能
・弊社へのお問い合わせはこちらから
・その他の無垢フローリング・羽目板ラインナップはこちらの記事下段から
・無垢フローリング・羽目板の一覧はホームページからどうぞ
木のビブリオが、それぞれの木が持つストーリーとともに、こだわりの木材をお届けするブログと、稀少木材・無垢フローリングのホームページです。
・樹種別無垢フローリングのブログ記事一覧
http://muku-mokuzai.livedoor.biz/archives/1611916.html
・戸田材木店・セルバのホームページ
http://selva-mukumokuzai.jp