雪に埋もれて750m 常瀧寺の大公孫樹
さぁ、木の虫ブログ定番の「雪まみれの巨樹巨木ツアー」の始まりだよ!!
子供ならいざ知らず、大人になると「雪まみれ」なんてぜんぜんワクワクしないこのコーナー。といいますか、普通はそんなことしませんが、私の場合は雪まみれ確率が非常に高いという事で、私の記事は積雪の巨樹との2ショットが拝める珍しい巨樹巨木探訪記である、というのも、もしかすると一つの特徴かもしれませんね。
縦に長い兵庫県。
私のイメージでは北部といいたいところですが、地図上は中部位に位置している丹波市に青垣町というところがあります。
山あいの静かな町という勝手なイメージですが、その山中に今回目当てで訪れた巨樹が存在します。
その所在地は、山中とはいっても1時間の登山!とかそういったものではなく、750mほど登ればいい、という数字を単純にみるとそう苦でなさそうで、マップで見ても道のついている部分に近そうな位置であったことから、わりと気軽に「ちょっと登るか・・・」位で訪れたのでしたが・・・・
お目当ての巨樹はお寺にあるという。
それは、どこに行っても街中の巨樹はお寺や神社の敷地に保護されている場合が多いので、例にもれず、境内に入ると少し山手に「これかぁ!!!」の如く現れるのだと思っていたものの、駐車場に止めて入っていくとすぐに「大公孫樹登山道←」の看板が・・・・
そう、お目当ては大公孫樹。
ん?!!?!、登山道?!!?!?!
まぁいいや、少し山登りする、といったことは事前調査で把握済み。山は好きだし、早く逢いたい。
そんな感じで看板の示す通りに進むと、トラックが登っていそうな広い登山道に出る。
おぉ、やっぱり。少しは登山道を歩くのか。仕方ない、早く行こう・・・・
そう自分に話しかけその道を登り始めたのです。
しかしながら、さきほどから「早く」とか「まぁ、いいや」とか若干後ろ向きで何かを気にしがちな雰囲気であるのには理由があって、実はここに到着の2時間後に大事な講座の受講が控えていて、現地からでも車で30分ほど移動しないといけなかったことがあり、時間を気にしていたことと、冒頭の「雪まみれ」が示すように訪問当日は朝から天気予報通りの雪。
丹波市でも道路にも積雪。スタッドレスタイヤでも若干滑るところが出るほどだったことから、例の「750m登山」という言葉に少しビビっていたことで、期待の巨樹への道が不安という霧に包まれ始めていたからでした。
そんな中、少しづつ「登山道」に入っていくと予想通りの積雪量。
まさか登山靴など履いてきておらず、スニーカーで登り始めた足元はみるみる雪に埋もれ、振り返ると遭難者の様に私の足跡だけが新雪に残されている様な状態。
頭の中には、「今年は雪が多かったこともあって、雪山遭難結構出てたなぁ・・・」という風に考える自分が出てきて、行けども行けどもその姿の見えない巨樹への不安がつのるばかり。
そう、一番怖いのは遭難とか事故。
一人で山に入って、しかも雪の時期。場所によっては携帯電話など電波の入らないところが多いので、万が一あれば多くの人に迷惑をかけてしまいます。
だから、さえぎる物の無い登山道で猛吹雪を受けながらも全く寒いという感覚はなく、携帯電話の電波が入るかどうかを常にチェックし、足元の安全などを確認しながら登っていくのでした。
普通の感覚で言うと、750mは頑張っていけばさほどの距離でないと想像するのですが、それが登山の750mは違います。
そりゃそうですよね。勾配があるんだもん。しかも足元は新雪。滑るわ埋まるわ、途中には崖崩れしてるところもあるわで、普通に登れない!!
あぁ、しまった、完全にあかん(ダメ)パターンや。
そう思うまでには既に15分が経過していました。
もう少し早く気付けよ!、そう思うでしょう。
何故ここまで無理してきたのか?!それは、もちろん同じ場所に2度訪れる機会は非常に稀だということと、なにより冬場以外は「ヒル(蛭)」がたくさん出没するので、結構やられるという話を聞いていたので、この時期しかない!!と決めて入っていったことが最大の理由だったかもしれません。
それで万が一あれば大変ですが、気持ちの50%は「あの曲がり道で引き返そうか・・・次に吹雪いたら・・・」といつでも戻る心づもりで歩いていたことは報告しておきましょう。
非常に前置きが長くなってしまいましたが、「あかん、もう帰る時間が無い。あの曲がり角で最後!」と心折れそうな中決心し最後の曲がり角を曲がると、何やら大きな影が・・・・
あれか?!!・・・・いや、あれであってくれ!!
半ば祈る様に、疲労した足を引きずり雪の中を進むと、やっと見えてきた。あれや・・・
まるで仙人が鎮座しているような、修行道をのぼりつめた私を待っていたかのように眼前にあるその姿には、「あぁ、逢えた・・・・」ただその言葉だけ。
これがお目当ての大公孫樹。すごい。
雪をかむるその姿に、しんどさを忘れしばし佇むのみ。
立派であることはもちろんわかっていて訪れたものの、やはり雪の中で、しかも山中の巨樹に逢うというのは、自分がそこにいるということに違和感を感じるような、そんな感覚にとらわれます。
いや、現実そんなにゆっくりも出来ないんです。
既に予定の時間を大幅にオーバー。少し余裕を見ているとは言っても、ここまでの所要時間は28分。帰りの事を考えると、雪の中急いでも25分?!・・・
急がなきゃ!!
通常の様に、苦労せずとも逢える巨樹であったなら、このイチョウにはかなり驚きその異形に畏れ慄くところですが、気持ちの焦りと吹雪の28分登山の後の小刻みに上下する肩の当時の私には、「早く撮影を!」の一心しかなく、淡々とカメラアングルを探していたことに、帰宅後の画像確認でようやく気がつくのでした。
それにしても大きい。
状況が状況だけに後で知ったことですが、この銀杏は西日本最大のイチョウと言われているそうで、立派なはずです。
異形の上に最大と来られると、おそれおののく以外にありません。
そしてもちろん、巨樹というのだから大きいのですが、周辺に他の樹木が無いこともあってか、その存在が強調されて神々しくも感じます。
吹雪の中なので、いつもの様に立て看板の由緒書きは既に雪で読むことができないことから、近くに建てられている休憩小屋の中にある由緒書きを読んでいると、実は山道に入る前の常瀧寺の境内は、古くは現在の境内よりも立派な伽藍で裏山に位置していたようで、後に現在の位置に移ったために、大公孫樹との距離が離れたしまったようです。
そして急いでいるがあまりこの看板を熟読する暇がなく、帰宅後に調べていてわかったことですが、この大公孫樹が実は源実朝暗殺の折に、公暁がその身をひそめたことで有名な鶴岡八幡宮のイチョウ(現在は倒れてしまっている)の親木ではないかという説があるのです。
その理由は、なんと2つのイチョウのDNAが一致しているからだそうで詳しい事は調査中だといいますが、なんとも不思議かつ面白いお話ではないですか。
樹齢1300年と言われるこんな立派な巨樹です。そんな逸話や伝説がないとおかしいくらい。
興味は深まるばかりです。
しかし驚くのはその大きさだけではありません。
何も知識が無く訪れていると、「巨樹の手前にもう一つ大木があるやんか、2本あるなんてすごいなぁ。」そんな感想になるはずなんです。
そう、常瀧寺のイチョウは、この大きく枝を広げた異形であることは誰も疑うことはないと思いますが、その傍らにも普通に考えるとかなりの太さのイチョウがあり、子どもかそれとも新しく芽吹いたのか?!と思ってしまうのですが、よーく見てください。
大銀杏の裏側に廻るとよくわかりますが、斜面下側に向かって大枝が垂れています。
そして、その枝の先を見るとそのもう一本の大木が見えます。(雪で見えにくいけど、現地ではみえます・・・)
お分かりでしょうか。この大銀杏は、伏状更新という状態にあるのです。
伏状更新とは、日本海側に分布する杉の巨樹にも多く見られる現象ですが、垂れ下がり、地面についた枝から地中に根を張り新しい幹としてでてくるもので、イチョウでは果たして目撃したことがあったかどうか、記憶が出てこないほど珍しいです。
それに加えて、大きく太く伸びた枝にはイチョウ独特の「乳」が大きく垂れ下がっており、さながら空の下の鍾乳洞の様。
そのうちこの乳も地面まで垂れるのではと思われる位の迫力です。
外見のこの迫力からは想像しにくいですが、解説版にあるように、落雷なのかそれとも火が燃え移ったのかは定かではないですが、主幹の内部は大きく黒焦げていて、痛々しく感じました。
もちろん、巨樹になると主幹が空洞になっていることはよくあることですから、だからと言って弱っているとは言いませんが、それでも立派な主幹を見たいと思うのが巨樹探訪者ではないでしょうか・・・
すごい上に実に興味深い、そう考えたのは温かい部屋の中だからで、この日実際の現地では「湿った雪のために物凄く冷たい」ことに加え、寒さ対策のためにダウンのジャンパーの下には温かい起毛のベストを着て、更に毛糸のセーター、おまけにマフラーをぐりぐりと巻いていた状態で750mを息切れする様に登った事から来る「ジャンパーの下のみ汗びっしょり」の、両極端な状態だった為に全く冷静さを欠いていました。
山登りでの汗対策は必須ですが、朝の大阪は寒かったものの雪は降っていなかったことから、装備のアンバランスが招いた結果でした。
懸念していた「ヒル」は避けられたものの、時間に追われて寒いわ暑いわ、靴までぐしょぐしょやわで、写真には出ない苦労だらけの訪問となったのでした。
追い打ちをかけたのはカメラ。
上記の様に冷静さを欠いていた私は、イチョウの周りを歩きながらアングルを考えていた時、ずっと電源を入れっぱなしだったことに気がつかず、せっせと撮影を始めたところ、液晶画面に電池の赤いマークが!!!
「なにぃぃ~~~!?!もうないの?!!昨日充電したやん!」と誰もいない山中で一人驚く。
が、理由を理解した私。
「まぁ、いいや。予備の電池があるから・・・・」と鞄を探り始めるも見当たらず・・・・ただでさえ汗がびっしょりのジャンパーの下に、「もしかしたら、電池ないかも・・・」と焦りの冷や汗が伝い始める・・・
「やってもたぁー、講座で使うからそっちの鞄にわざわざいれたんやったぁー!!」
きちんと整理して荷づくりしたきっちり屋の吉五郎な性格が災いし、肝心な撮影に電池が足りなくなるかもしれないという失神寸前の私。
しかも、何度も言いますが、新雪の中時間に追われ、汗まみれ雪まみれの登山の末にたどり着いた巨樹やのに、今からやり直しでけへん!!、という後悔がどんどん溢れて来て、疲労もありもう倒れそう。
何とか開き直り、電池の続く限りデジカメでしか取れない写真を優先して撮影していった結果何とか、思うものは撮れたものの本当に自分の未熟さを感じてしまいました。
結論、講座にも間に合った(間に合わせた)ので、全て予定をこなせたのですが、やはり後で見る写真に映るイチョウの迫力は、冷静にその姿を肉眼に焼き付けておきたかったと思うもので、デジカメの画面越しに見る構図ばかりが頭に残っているのが少しばかり悔しいところでした。
本気になれば再度いくこともできますが、どうしてもヒルが気になって気になって・・・
もし、再度いくことになれば絶対もう一度記事として紹介しますので、その時は「あぁ、また行きよったんやな。」と笑ってやってください。
そんなこんなで、良くも悪くもとても忘れることのできない巨樹訪問記になり、苦労したとはいえ、雪に佇む巨大な命に逢えたことは大きな想い出になった事を報告して「雪まみれの巨樹巨木ツアー」を終了したいと思います。
常瀧寺の大イチョウ所在地
兵庫県丹波市青垣町大名草481 常瀧寺の奥の山中
駐車場に車を停めあがっていくと、境内右手に小さな墓所があり、その脇から「登山道」に入っていきます。
私はあっていませんが、ヒルに注意することと冬場は特に雪で足場が悪かったり崖崩れしていたりして道幅が狭く通りにくい部分があったりする危険もありますので、油断せずに登られる事をお勧めします。
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