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聞かれること無いけど聴いて欲しい、木材の話 地栂とベイツガ


前回といい今回といい、なんか御贔屓の木材ばかりをとりあげている様な話になってしまっていますが、やっぱり好きなものは好き。
それしかないのではなく、それをすすめたい使い方に当てはまるおうちが続いただけのことで、やっぱりお客様には自分が情熱をもって届けられる木材を使ってもらいたいという気持ちがあるからだと理解していただきたいです。
自分が惚れこんだ材料を情熱を持っておすすめする、それを喜んでもらった時の嬉しさと言ったら、文字では例えようがありません。
という事で今回は、先日リニューアルした「ひば」につづいて「地栂(じつが・じとが)」のお話。

ひば・地栂の両者とも大阪近辺の現在の通常の建築や木材の世界では、ほとんど表舞台には出てこない樹種であり、大工さんすらも知らないこれらの材料を詳しく尋ねてこられるお客様はめったにおられませんが、だからこそ、私がアツく語ってしまう、そして脚光を浴びせたくなる木材であるのです。

と言っておきながら実は、私自身昔はあんまり・・・どころか全く良いイメージの無かった栂。
専ら弊社やお得意様の間では「とが」と呼ばれていましたが、「ペンキ塗るから栂でいいわ」、「敷居の入れ替えやねんけど何か安い材料は?栂でもえぇか。」、「土台は桧みたいな上等いらんで、栂でいいわ」等々がその用途。
なんかとってもネガティブではないですか?!
この言葉尻がそのままの私の印象でした。 栂は下級材・・・・

そう、昔はそうでした。いや、今でもペンキ塗装仕上げの下地に使う木材の代表は間違いなく栂ですし、住宅の中に本物の木で作られた枠材や板が見られなくなったとはいえ、古い住宅の改修や木材塗装仕上げの内装には欠かせない存在です。
実際、弊社も今でも各寸法の在庫を持っていますし、以前は更に多くの種類の板材を倉庫に寝かせていたものです。
もちろん、それは他の木材に比べて価格が落ち着いていて供給量も豊富だからできることですが、それ以上に忘れてはいけないのが「節の無い(少ない)木がとれること」です。
様々なサイズで、しかも長い木材がとりにくい広葉樹とは違い長さの長いものもとることができる、ということがとても大きな特徴です。

おっと、ここで整理しておかなければいけません。
今お話しているのは、実は「ベイツガ(米栂) western hemlock 」のことです。地栂のお話といっておいてベイツガの事を語り始めるのはおかしい様に感じるかもしれませんが、それが一番重要な前置きなのです。

ベイツガ4


地栂を語るには、まずベイツガを語れ!とは私の勝手な言葉ですが、先のペンキ仕上げのお話も、土台のお話も、みんな材としての良さではなく仕方なしに選択している様なニュアンスで聞こえてきますが、まさしくそれが「地栂も含めた栂」の印象なのです。
つまりは、安い材料だということ、イコール昔のことですから人工乾燥材も多く流通していませんでしたし、特に土台材に人工乾燥材など使うような時代では無かった時には、安いけれどもとても狂いやすく扱いにくい、というのが材木屋含め大工さんの印象でした。

ベイツガ3


栂は大径木になるものもあり、特にカナダなどでは安定的に供給できる大きな蓄積をもっていますが、質よりも量の供給が勝っていた時代には、私ですらベイツガの受注をするのは「ロス」を考えると億劫なものでした。
それ位、建築材としては「使えない」と言われるほどの反りやねじれが出るものばかりでした。

下の写真を見てください。
私が材を持つ手をねじっているのではなく、地面にまっすぐに触れさせているのですが、手もとの木口は斜めにかたむいていますよね?!
これがねじれです。
ベイツガにかかればこれくらい、朝飯前です。
梱包を開梱して検品していると、あぁ、またねじれや・・・切り使いしよか、といったような会話の流れで短尺材に廻すことになるんですが、木材は長さが長くなるほど材の価格は高くなります。
それなのに、長いものを短く切っていかいないといけないというのは、大きなロス以外の何物でもありません。
こんな感じといえば、まぁわかっていただけますか?!

ベイツガ2


その印象は、ベイツガではなく地栂ですよ、といっても「栂=昔のベイツガ」という印象で、少なくとも私の周りでは以前の状況を知る大工さんほど敬遠されるといったような状況が地栂を取り巻く環境なのです。
それ位、ベイツガの印象が強かったのは、地栂自体が材としての流通量が決して多く無く、市場では見かけないからだということも理由の一つであることは確かです。

だから、「ツガ」という樹種名を知っている方に地栂のお話をする際には、必ず米栂との違いから始めないといけませんから、聞かれなくても聴いてもらわないと採用には至らない最たる樹種ではなかろうかと感じます。
もちろん、ベイツガ(カナダツガ eastern hemlock\Tsuga canadensis)も乾燥と製材をきっちりとしていれば、素晴らしい製品がいくらでもありますから、ご心配無き用に。
質より量を重んじた時代の昔話です。
日本のツガよりも樹高が高く育ち安定供給ができ、地栂よりも若干淡い色合いで他材の邪魔をせず、傷害樹脂道や入り皮は多いものの低価格で材による個体差が少なかったそんなベイツガも、現在ではシマフクロウの生息地である森林の保護の為に伐採できなくなってしまった背景から、入荷の多くはカナダツガに移行しています。

節の少ない色白の木肌の割に黒くなりやすい節や、ねじれなど色々と文句を言われながらも、日本の白木(しらき)建築の一時代を支えたベイツガですが、現在は印刷の化粧シート建材や集成材のフリー板と呼ばれるものに活躍の場を奪われてしまった感は否めません。

ベイツガ1


ベイツガですらそんな勢いですから、今から地栂をすすめようというのもおかしいと言われるかもしれませんが、それが私の仕事。
良いものはいい。好きになっていただける方にお勧めするのが私の役目。
ということで、少しベイツガが長くなりましたが次回に本題の地栂に入りたいと思います。
ひばも栂も、日本の隠し玉みたいな樹種です。その魅力に取りつかれるとなかなか離れられません。
そんな世界をご紹介します。


コメント
1. Posted by KeiN   2018年03月08日 00:29
4 はじめまして!
現在リフォーム中、玄関ホールの格子は米栂を使用しております。クリアでマットな塗装をかけたところ むらが出来てしまい気になっていたところ、このブログメッセージ見つけました。米栂の性質をはじめ 無垢の良さや材質 種類等、色々と勉強になります。
2. Posted by 戸田材木店より   2018年03月08日 19:01
KeiNさま
初めまして。コメント有難うございます。
リフォームに米栂。良いですね。良い材ですよ。米栂。どんな要望にもこたえてくれる、スーパーマンです!
塗装ムラの原因はわかりませんが、組織によるものでしょうかね。
クリヤーの塗装ではやはり、完璧にムラ無しは難しいですね。普通は下地処理をしますがクリヤーはそんなことできないですしね。
良いリフォームになる事を祈ります。
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