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木材に影響するカビを含む菌類について 〜木材腐朽について〜


昔の弊社の木場には、ドカッと木材が積み上がっていました。
今なら、すごい在庫やなー、と言われそうなものですが、まだ人工乾燥材など全く普及していない頃は、入荷する木材というのは和室などの為に鉋で削って仕上げてから使うような「化粧材」以外は、ボトボトと水が滴る・・・まではいかずとも本当に立てていると流れてくるくらいの「生木(なまき)」でした。
そのため倉庫内部では用途によって、立てて保管し乾燥させるものと、横に倒して桟木を入れて風を通る様にして乾燥させるものとの双方がありましたので、兎に角場所が必要。

あらゆるところに木材が積み上がっていて、その風景の方が自然でした。
しかし現在では、有難い事に人工乾燥材の普及で住宅部材に使用する木材に関しては、一般的なものはほぼ乾燥材で揃える事が出来るようになりましたので、弊社のうずたかい在庫も次第に少なくなっていきました。

昔を思い出してみると、忙しさにかまけて少しでも入荷材をほおっておくと、梅雨の時期などは即座にカビに侵されたり、腐朽菌の繁殖により薄板を結束してある梱包などは外観は問題ないのにもかかわらず、内部は全体的に腐食しているという、結束を開けて初めて「やってもたーー」見たいな時が稀にありました。
完全な管理怠慢です。

そんなだからこそ、空気が淀んでいると場所を移し換えてやったり、湿気の抜けない場合は並べ方を変えたりして、常に木に触れ気にしていたものでした。
木は生き物。
これは木の伸縮を表す表現である「呼吸」というものを例えて使われますが、まさしく生き物、または生もの、であって、ほったらかしや管理不足では、みすみす払ったお金を腐らせてしまうようなものであるということを、耳にタコができるほどに言われたものでした。
それが現在では、人工乾燥材が主流になり建築材料を自社で乾かすということが殆どなくなったので、材木屋さんもだんだんと大きなスペースを必要としなくなったのです。

前置きが長くなりましたが、前回の腐朽した柱からの続きで大切な木材を変色・腐朽させるカビについてのお話です。

カビ菌 6


カビ!というと、ものすごく汚くて体に悪そうな印象を持ってしまうのではないでしょうか?!

私が想像する実例では、木製のまな板がそういった印象をもたれる一番の「的」です。一時耳にしたのは、飲食店さんで使用するまな板は、衛生上の問題で木のまな板は使用してはいけない、という信じられないお話。

カビ菌 1

テレビのコマーシャルでは、綺麗に見えるまな板でも菌がたくさんついている!ということも報じられていますが、はたして菌は全く許されないものなのか?!また、カビの生える木製のまな板は使えないものなのか?!・・・

皆さんはキノコ好きですか?

率直にいうと、キノコは菌類の俗称で、その他はカビと呼ばれている・・・というと、ちょっと今日の食卓のキノコを躊躇するでしょうか?!失礼しました。キノコ、私大好きです。決して悪者ではありません。念のため。

それでは、カビといって敬遠されているものはいったい木材にどのような影響を及ぼすのか?そしてどうして敬遠されているのかを考えてみましょう。

一般的に言われている「カビ」というのは、木材表面を筋状の菌糸で青色や黒色などに変色汚染させる変色菌があります。これらは、木材が乾燥し、カビの成長に適しない環境になっても木材の辺材部には変色が残るので、木材の価値を相当落としてしまいます。
中でも、ブナやシナノキ、松などに代表される青色変色は要注意で、相当なスピードで汚染されてしまうので、管理に注意が必要なことと、建築の世界では少なくはなっているものの今でも利用される「松」が、伐採時期がきちんと管理されているのは、この「アオ」と呼ばれる変色が生じるからです。

青入り松

因みに、変色菌に侵された材は曲げ強度という物性にはほとんど変化がないそうですが、衝撃強度が若干落ちると言われています。どちらにせよ、せっかくの木材の外観を損なうので敬遠されることは言うまでもありません。

が、変色菌については一部を除いては木材の組織自体を分解(腐朽)することはないと言われています。
その一部というのは「軟腐朽菌」といわれるもので、バクテリアやそのほかの菌類を含めて急激ではない、緩やかな腐朽を生じるのでカビが総じて敬遠されるのは、このイメージが大きいのも一つの理由でしょう。

この軟腐朽菌は、木材の構成組織であるセルロースとヘミセルロースをよく分解し、リグニンという組織も多少分解する力を持っています。多湿な状況下におかれた木材のセルロースに沿って伸び、組織中に空洞を作り軟化させる現象を起こさせるのがこの軟腐朽菌です。

ここで出てきた木材の組織の名前の解説をしておきましょう。
これらの組織はよく「鉄筋コンクリート」に例えられます。

セルロース(木材の50%)は鉄筋、ヘミセルロース(同20〜30%)は針金、リグニン(同20〜30%)がコンクリートの役割をしている、いわば天然の鉄筋コンクリート造が木材なのです。つまりは、それぞれが補助し融合しながら、強い木材とう組織を作り上げているということです。

意外でしょう?!よく強度や性質の違いを比べられる両者が、くしくも似たような構造を持っているのは、やはりその構造が優れているから。自然の持つ意味というのは、奥が深く素晴らしいものだということを改めて実感します。
木材は、一部の例外(有名な紫檀黒檀鉄刀木)を除き、組織の95%が上記の3つで構成されており、残り5%に有用な抽出成分が含まれているのです。因みに「リグニン」の語源はラテン語のlignum=木材で、細胞壁にリグニンが沈着することを「木化、木質化」ということからも、その意味が想像できますね。そしてお分かりの通り、lignumは有名なリグナムバイタのリグナムと同義です。

さて話は戻って、この強固な組織を分解してしまうのが菌類のすごいところです。
その菌類は、木材が侵されたときに呈する色合いで分類されています。

一つは褐色腐朽菌。主に針葉樹を腐らせる場合が多いもので、セルロース、ヘミセルロースを同じ割合で分解するもののリグニンは分解されないことから、侵された材がリグニンの持つ色である褐色になることからこの名がついています。

そして褐色に変色した木材は、変形収縮しボロボロになってしまいます。

取り替えた柱2

もう一つは白色腐朽菌。セルロース、ヘミセルロース、リグニンを同割合で分解し、腐朽した木材は色あせ白色っぽくなりますが、褐色腐朽のような変形収縮はないものの、ほぐれやすくなることが知られています。
なんと、シイタケやエノキタケのような食用のキノコの多くはこの仲間だと言いますから、敬遠されている菌類が食卓に並んでいるということ?!!になります。ビックリ!

そして木材腐朽菌というのは空気中に存在し目に見えず、生存条件が整って初めて発芽し菌糸を伸ばして木材中に侵入するという性質があるため、無菌にすることができない以上、湿度や温度、酸素の供給と栄養分などの、生存条件のどれかを絶たない限り防ぐことはできないのです。

これらの性質を持つカビ、菌類ですが意外と詳しくは知られておらず、一般的に良くないもの、という印象が強く残っていることから敬遠され、カビのつく木材という素材も敬遠されるのではなかろうかと感じます。

カビ菌 3

まな板にしろ、お風呂場のイス(使い始め当初の写真はこちら)にしろ、完全に無害であると言い切ることはできないにしても、食用のキノコやチーズをも含むカビのすべてが悪い、危険であるとも言い切れないことは少しは伝わったでしょうか?!

木材を腐朽させるものは、カビというよりも木材腐朽菌である、ということ。そして、木材の中にはヒノキなどのように、元来含まれる抽出成分のおかげで、腐朽やカビの発生を抑制することができる樹種もあり、抗菌成分を持っていることも知られているからこそ、古くからまな板として利用されてきたのですから、先の菌が成長しやすい環境を作らないようにしさえすれば、上手に木材を生活の中に取り込むことができると思うのです。

少しはカビ・菌に対する偏見が変わったでしょうか?!

そこで次回は、今でてきた「ヒノキ」のもつ力と、それがあるからこそ若干誤解されてしまっている現状を、色々とお話していきたいと思います。

もう少し、シリーズ続きます。




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