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これぞ象の、脚ぞ想えし 〜贄川のトチ〜


2回にかけて「トチ」についてお話してきましたが、締めくくりはトチの巨樹のお話にしましょう。
あれだけテーブル材などの大きな木材ができるとお話してきたんですから、きっと大きな木があるはず・・・
そう考えながら山間などを見ていても、なかなか見当たらないものです。こと、私のいる地域大阪は、巨樹と言えば樟、といってもいい位に樟が多く(他では長野県の一部ではケヤキばっかりというのを経験しました)街中でも立派な木を見る事が出来るのですが、トチの木となるとなかなかお目にかかれません。

それもそのはず、トチの生育環境としては渓谷沿いに育ちやすいということなので、盆地である大阪近辺には巨木は見かけないのでしょう。
以前に「モミではなく栃(とち)の木は残った」という記事を書きましたが、その残ったトチが生育していた場所も、滋賀県の安曇川流域ということで、水のある場所でした。

今回見てもらうトチの木もすこし離れてはいますが、近くには川が流れています。やはり関係はあるのかな。

贄川のトチ 3

場所は長野県塩尻市贄川。
ここから有名な木曽路が馬籠まで続いていく、現在の国道19号沿いにご丁寧な見学駐車場という綺麗な看板が出ています。
とはいえ、歩道が整備されている区間を走っていると、道路際に聳え立っていると思しきトチを目当てに行く者には、民家のすぐそばに立っているこの看板は目に入りにくく通り過ぎてしまいそうになります。

贄川のトチ 2

道路際の説明板。
右に見える民家の進入路になっているため、まさか見学用駐車場だとは認識しづらいのです。実は一回通り過ぎてしまいました。
しかしながら国道沿いで駐車スペースを用意してくれているのはとても有難いです。
どの巨樹訪問においてもそうですが、ちょろっと眺めて帰る様な事は無いので、駐車スペースはいつも気になるところです。

有難い駐車スペースに車を停め(といっても、私が訪問したときは入り口にどっかりと積雪していて、流石に愛車のバンパーを除雪車代わりにそこに入ることが出来ずやむなく別に駐車したのですが・・・)改めて眺めてみると迫力があります。

贄川のトチ 13

雪景色でわかるとおり、冬が終わるころの為葉はありません。
これにあおあおと葉が茂っていれば、更に印象は変わったことと思いますが、それでも、山肌に太く大きく鎮座する光景は見事なものです。

贄川のトチ 7

ボコボコと隆起した幹は力強く、木材としての涼やかなトチの白さとは全く対極で、優しげなイメージを払拭されたような気分です。
そのごつごつとした樹皮にはカテコール系のタンニンがふくまれている事から、鞣革(なめしがわ)に使われるそうです。
またトチは、ナラなどのように薪炭材としての有用性は低いけれども、活性炭には白樺やハンノキとともに良いとされています。
また実に含まれる「サポニン」はシャボン玉の「シャボン」と同じ語源から来ており、その言葉のイメージ通りで、石鹸の代わりとして使うことが出来るといいます。

贄川のトチ 8

巨樹のこんなコブを見ると、不謹慎にも「どんな杢がでるんだろう・・・」と考えたりしてしまうのは、木が好きだとはいえ材木屋のサガ・・・
こんな明るい場所だとその想像もふくらみますが、神社境内や、薄暗い山の中の巨樹の場合はそんな想像をしていると、身震いしてきます。こんな感覚わかるでしょうか。

めちゃくちゃ綺麗な看板。最近新しくされたのだと思います。
落ち着いた赤紫地の木目のパネルに見やすくかかれています。ついつい、この看板の樹種は?!と思ってしまいますが、印刷とはいえローズウッド系の杢柄か、と読み進めると最後に「ウェンジ」の文字が・・・
何?ウェンジの柄なの?!と我が目を疑うも、よくよく読んでみると樹幹下の祠が「ウエンジン様」とよばれているそうな・・・
なんとも早とちりな勘違い。職業病ですな、これは。
トホホなオチでした。

贄川のトチ 5

さて、長野県の天然記念物に指定されている贄川のトチ。
その立派な体躯からすると指定は当然のこと。
しかし驚くのはその樹齢。
なんと約1000年とあります。
各地の巨樹である杉を含む屋久杉やクスノキ、巨樹になるイチョウなど様々ありますが、しかしながら前回までに書いたように比較的大きく育つトチが、この大きさで1000年ということに対して驚きました。
1000年もたてば更に巨大になっているのかと思っていたからです。
もちろん無尽蔵に大きくなるわけではないのですが、このトチの歩んできた1000年という月日がどんなものだったのか、ふと思い耽ってしまいました。

贄川のトチ 10

廻りが雪に覆われ、しかも結構な斜面のため、カメラアングルが限られていしまいますが、やっぱり正面のこのアングルが一番迫力がある様に思います。

斜面下から見上げるトチはまさしく、その名「橡」が示す通り「象の脚」の如く太く逞しく感じます。
まるで今踏みだされたかの様な、シワくれていますが力強い感じ。
前回まではトチと馬の関係を多く紹介しましたが、もしかするとこの見事な幹に象の逞しさを感じたのが「橡」のもとなのではないかという想像が巡りました。

しかし、本当のところはどうも、昔は「橡=つるはみ」と発し、ドングリの事を指して用いられていたようで、これがまさしく先のドングリに酷似した実から来た当て字なのではないかと邪推するのですが、どちらも楽しくなってきますよね。
名前と漢字の結びつきは面白い!

贄川のトチ 9

下に見える車の位置が国道です。
少し小さく見えますが、それだけ離れているということ。だからこそ、道路際ばかりを見ていると通り過ぎてしまいます。
この位置からトチを眺めると、ちょっと1000年生きてきたトチの気持ちになったような気がします。
斜面から一人巨樹になった自分の眼下に広がる川、そしておそらく車の無い時代には往来の人々を静かに見守ったであろうことを思うと、すこしその大きさに親近感を覚えました。

贄川のトチ 12

これがトチの真横から撮影した写真です。
眼前が国道とはいえ、大阪の様に車が車列を成しているわけでではなく、途切れては通るという程度です。
その道路の向こうに川を挟んで正面も雄大な山景色。
道路の整備されていない時代は、厳しい山道だったのかもしれませんが、今は至って静か。
ここから見る移り変わる時代はどうみえていたのでしょう・・・

さて、最後に恒例の背比べ。

贄川のトチ 11

トチの周囲には柵があるので少し離れていることと、正面がもっとも樹幹の幅を感じさせるのですが、カメラを上手く設置することが出来ずに、仕方なく横面に並びましたので、その立派さが伝わりにくいのが残念です。
実は訪問前に見ていた他の写真でも、「まぁまぁの大きさかな・・」位にしか思っていなかったこともあり、やはり贄川のトチは実際に会ってみてこそ良さのわかる巨樹なのかもしれません。

やっぱりこれだけの大きさに成長するトチですから、立派なテーブル材が取れるのも納得してしまいます。
でも、こんなに立派な木を見ると、「売りやすいか否か」という観点の善し悪しで判断する様にはならないですね。注目されて然るべき樹種だと思います。

流石に広い広い長野県下一のトチの木。
見事でした。
出来る事ならば新緑の季節にもう一度会ってみたい、そう思わせるに十分な存在感はやはり「万の実り」を予感させるからでしょうか・・・・・


贄川のトチ所在地

長野県塩尻市贄川1882
駐車場あり

近くには池生神社のトチノキや東漸寺のシダレザクラほかがある。
その他にも足を延ばせば様々あるが、長野県は目的地から少し脚を伸ばせば次の巨樹が現れる為、どこまでを行程に含めるのか相当悩むのが苦しいところ。




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