その輝き神々しく・・・松柾無垢フローリング(縁甲板)
あんまり昔話をしたくありませんが、まだ若い(つもりの・・・)私でさえも時代によって使われる材料の変遷と、その原料となる木材の樹種の移ろいにはつい「昔は」という言葉を使いたくなってしまいます。
建築様式も意匠の移り変わりも、そのスピードは驚くほど早く感じます。
先日にお伝えしたばかりのパープルハートの記事の中のラワン類やアピトンフローリングなどもその代名詞だと感じます。
なんかそんな話ばかりで恐縮ですが、今回も懐かしい系の話題です。
私もしみじみとその材が使われていた往時を振り返り、一人感傷に浸りたくなっていたのですが、材がおうちの中で木材として2度目の生を受けたところがまた輝いていましたので、つい我が子をほめるかのような気持ちでお伝えしたくなってしまいますのであしからず・・・
今回懐かしむ材(?!)は、松柾無垢フローリングです。
いや、松の縁甲板(えんこういた)といった方がしっくりきますね。
広い広い、ちょっとした部屋になりそうな位に広い玄関から奥の間に続く廊下の床板として施工された松柾の縁甲板。
縁甲板とは、建築用語辞典によると縁側等の床板として貼られる無垢の板材、フローリングと同義だが、洋風はフローリング和風は縁甲板と使い分けられる場合がある、というわかりやすい説明がありました。
私も普段無意識に使い分けていますが、確かにその通りです。
つまりは、今回も和風建築の正式な玄関からの床板に使っていただき、その仕上がりが材料の久しぶりとともに見事で、拝見できる日を楽しみにしていたのでした。
10年ほど前は、弊社近くの和風住宅を多く手掛けられていた大工さんがいらっしゃたので、この松柾縁甲板もそこそこと出荷していたものですが、それも当主が御若くなると、趣向が異なることと価値はあるのだけれども床に対して予算をかける事が出来ない、といったような理由で、稀少な松柾縁甲板は採用されなくなるとともに、肝心の松柾材の入荷も細っていったのです。
見てください、この年輪の細かさ。
この年輪の一本分(白っぽい部分と赤っぽい部分の一対)で一年の成長ですから、元になった原木が成長するスピードがいかほどであったかは、想像する事が難しいような時間の流れだと思います。
成長するスピードが遅いということは、使うスピードが速いともちろん供給不足になります。
だんだんと原木の出荷が少なくなりますものね。
難しいところです。
西岡棟梁の社寺建築の様に、千年の木を使った建築には千年の命がある、といった精神で、使っていかなければ良質な木材というのは循環できませんから、この松柾縁甲板も、これからずっと、この玄関廊下を支えていってくれることだと思います。
因みに、ふと横を見るとまさしく縁甲板、縁側に施工された40年前(とおっしゃっていたと思う。)の松柾に会うことが出来ました。
黒光り、そんな感じです。
良質な松縁甲板は油分を多く含んでいる部分があるため、その油が材面に滲出し、そこを歩いたり手入れの際に拭きあげたりすることで油分が伸び、深い艶をましていきます。
汚れっぱなしですわ・・・とは当主の御言葉。
いやいや、これぞ無垢材、本物のフローリングの姿です。
いつもいつも経年変化とか、住まう人とともに時を過ごすのが無垢材・無垢フローリングだと言っていますが、まさしくこれこそが数十年の時代を御家族とともにした証です。
もう表面は天然の浮造り(うづくり)になっていて、足裏にも心地よい風合いでした。
今回は漏水がもとで改修をされた玄関ですが、もちろんこの材もこれからどんどん深みを増すこと間違いなし。
現在の姿も美しいものですが、更に年月を経て初めて出る味わいを楽しむことが出来ると思います。
しかしながら、この縁甲板を施工された大工さんもまたすごかった。
やはり、よい木材にはよい施工者が必要です。
いくら素材が良くても、施工が悪くては素材も活きてきません。
実はこの縁甲板、あらかじめ機械で仕上げ加工まで施されています。
製材したままの状態ではもちろんないのですが、一般的にはそのまま施工しても問題のない程度には仕上げられているのですが、今回の大工さんは違っていました。
納品してから日が経つにも関わらず、施工されていない。
何故かというと、作業場にて一枚一枚木を見て、更に仕上げられている表面を、再度手で仕上げをかけられたそうです。
曰く、どうしても機械通ってきよるとまっすぐにはならんでなぁ・・・最後やっぱりきちんとしたらんと・・・
流石です。どうりですごい艶があるわけだ・・・
見てください。
室内ですよ。
しかも太陽光が強く指しているわけでもなく、むしろ少し曇りの日だったにも関わらず、一筋の道の様に縁甲板が光り輝いています。
松という樹種は縁起の良い木とされ、神様の依り代と考えられたり、常緑のシンボルは絶えず枯れないことなどを縁起担ぎにされる事がある木です。
この光り輝く一筋の道は、神様が降りてこられる道なのでは・・・・
いやぁ、住宅の玄関には何とも縁起の良いものです。
なかなか近頃は見る事ができない松柾の縁甲板の美しい仕上がりを見る事ができ大満足です。
縁側の先輩も一緒に見る事ができてラッキーでした。
これから数十年、どんどん深みを増すであろう松縁甲板に期待です。
因みにもう少し施工続きます。
次回は、縁甲板ではなく洋風のフローリングの部分。これも懐かしの?!材料です。
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