空を見上げて
トップページ » 爽やかな季節に・・・ 有洞のサワラ

爽やかな季節に・・・ 有洞のサワラ


気がつけば、長く続いていた冬の様な寒さも和らぎ、風の香りが涼しいながらもどこか温かな日差しを浴びている様なすがすがしさを感じる季節になっています。
ツンっと冷たかった風が、木々の新緑の影響を受けてか、とても優しく体に入ってくるように感じます。太陽の直射では暑い位です。
特に緑の多い場所での爽やかさは顕著ですね。本当に気持ちのいいものです。

そんな爽やかな季節、爽やかという言葉の元になった・・いや、爽やかという言葉からその名がついたともいわれる木のことを思い出していました。
その木はあまり表舞台に出る事が無く、また広く知られているわけではありません。
立っている木の印象も材となったその木肌も、「木材のエース」とでも呼べる樹種に酷似しているにもかかわらず、スポットを浴びる機会の少ない樹種。
似ている木はそう、ヒノキ。そしてその樹種の名前の元は、今(5月ごろ)の様な気持ちのいい季節を現しているかのようです。

認知度はあるのだろうか?その名は「サワラ」。

サワラと言えば、普通思い浮かべるのは魚の方でしょうね。漢字変換しても、そっちしか出てきません。
でも、れっきとした樹種名で、実は皆さんも昔は触れていたかもしれない、あるものに使われている樹種です。
もちろん、そもそもその用途で使われていても「ヒノキだ」と認識されていて木がつかないでいた、ということも十分にあり得ますが・・・


好きが高じて色々な場所の木々を見たり巨樹古木をたずねていると、杉や樟(くす)といった巨木常連樹種以外の樹種に出会えることもあります。
その中に、いくつか「サワラ」も含まれています。
私が出会ったサワラのうちの一つがこちら。

有洞のサワラ 8































有洞のサワラです。

私の個人的な偏見ですが、この有洞のサワラのある愛知県はあまり「山」のイメージがありませんでした。
どちらかというと都会っぽいというか、そんな風に勝手に考えていたのでこんな立派なサワラがあるというのは少し驚きでした。
といっても、街中に聳えているわけではありません。
そのあたりは後ほど語りましょう。

有洞のサワラ 1










看板にある様に県下最大のサワラだそうです。
私もそんなに多くのサワラを見てきたわけではないですが、おどろおどろしいウラスギや象のような樟(くすのき)、多くのひこばえをだす桂(かつら)などに比べると、斜面であるにも関わらず、まっすぐ「すくっ」と立っている姿はなかなかのものです。

有洞のサワラ 7












 しかしながら、ここまでまっすぐに伸びているということは、もしかして杉の間違いなんじゃないの?と思ってしまうくらいですが、サワラも通直に伸びる事で有名。













桧とはその樹皮もにているサワラのような針葉樹の立木を見分けるのは、ある程度の知識と特徴を見分ける目を養う必要がありますが、このサワラは、その材も見分けにくいのです。

有洞のサワラ 6

 その葉もヒノキのそれのようですが、葉にある白い紋様の違いや球果の違いなどで見分けがつきます。






冒頭に書いたように、このサワラという樹種はヒノキの仲間です。
だからというわけではありませんが、すこぶるヒノキに似ています。
いや、別なのですが、多分見比べてもわからないんではないでしょうか・・・

桧とさわら



 ほらね。






少し日焼けしているところもあって色合いは違いますが、それでも「何が違うねん?!」と言いたくなりませんか?
因みに右がヒノキ、左がサワラです。

独特の油の出方も似ているのですが、しいて言えばサワラの方が多いかと思いますが、そんなもの、桧でも密着させておけばすぐに滲みだすさ!!、と自慢にならないのですが、そんなところまでそっくりです。

ただ、その香りにはかなり特徴的なところがあり、見ても判別できない場合はその香りをかぐことです。
そしてそこにこそ、サワラの真骨頂があるのです!!

実はこの樹種の名前、魚と間違われそうなものですが実はこの香りが「さわらかだ」=爽やかだ、ということが転じて「サワラ」になったとか・・・
もともとは古語の「さはらか=すっきりしている」という言葉らしいです。
シャレですね・・・もちろん、他にも諸説あるのですがそれでも、本当にそういわれれば強くはないですがさわらかな・・・と思うようなヒノキとはまた違った香りがします。
香り好きの私にとっては、もいいですがひば、このサワラの香りもとてもいいものです。

ただ、正確に何が「さはらか」なのかは定かではない様で、香りがヒノキよりさはらかなのか?、枝ぶりがヒノキに比べてすっきりしている(さはらか)からなのか?!、はたまた材がヒノキより軽軟=すっきりとしているからなのか?!!そのあたりは、興味をそそられるところですから御自身の仮説を立ててみてください。

有洞のサワラ 3































正面からだと枝が垂れ下がっているため、その姿を十分に確認しづらいのですが、看板にある「県下最大のサワラ」という言葉が誇らしげです。
豪華客船が舞台の映画では、モノの「大きさにこだわるのは男だけ」というようなセリフがありましたが、やはり私もそうなのでしょうか?!最大、という文字にはどこか惹かれるところが無きにしも非ず・・・俗な性分な様です・・・

大きさはまた別の話として、サワラ自体は木材としても優れた性質を持っています。
もちろん、ヒノキに似ているところからもわかるように、水湿に耐え尚且つ材が通直で寸法安定性があり曲げやすいことから、桶やたらい浴槽などの水廻り用品には最適です。
先の板の写真の様に、昔おうちで見ていた寿司桶などはその用途と外観からヒノキだとおもっていたものが、実はサワラだったのかもしれませんよ。私もその口の一人です(汗)。
因みに、私がヒノキだと思い込んでいた自宅の寿司桶は、今回の記事のアップロードを待たずにその寿命を迎えたそうで、有難く使い終えさせてもらい現在は写真でお見せすることが出来ないのが残念ですが、皆さんも一度ご実家の寿司桶をお確かめ下さい(笑)。

ただ、桧ほどの強度を認められていないので建築の構造材としては用いられてこなかったそうです。それよりも先にあげたつくり物用材として重宝されていたのでしょうね。


これらは、今は杉・桧・松位しか広く知られる事はないですが、昔はこのサワラの様に生活の細かなところまで、その材の特徴を活かした用途に使われていた良い例ですね。
先人の優れた知恵と、優れた木材の性質。
忘れたくないものです。

有洞のサワラ 2







 しかし、有用な樹種とは言え、これくらいの巨木になってくると、幹内部の空洞化は避けて通れません。

 蒲生の大クスなどの様に、内部に畳●○畳分の広さ、というほどではないにしろ、空間が出来ています。

 これも詳しくは後日に譲りますが、巨樹が生き残る一つの戦略なのでしょう。

 決して可哀想なことではないのです。









さぁ、ぐるっとひと廻りして眺めたところで記念撮影。
私にとっては、サワラという樹種の珍しい巨樹であるだけに、少し嬉しげに一枚。

有洞のサワラ 5










なんか写真が傾いている様に感じますが・・・
有洞のサワラの前は結構な坂道なので、人間を基準にすると、少しおかしなアングルになってしまいました。

根の張り具合がわかっていただけるんではないでしょうか。

私がこのサワラに訪れたのは結構な早朝だったにも関わらず、向こうから歩いてこられる御仁が一人。
とりあえず、おはようございます!とあいさつすると、「大阪から?!」とすぐに会話が始まったのですが、それには二つ理由があった様です。
一つには、またサワラを見に来たんだね、という巨樹めぐりの人を見る慣れた理由。
もうひとつは御家族の理由だったのですが、実はこの御仁の娘さんが大阪に嫁いでいらっしゃるらしく、大阪ナンバーの車を見て「大阪のどこからか?」と娘さんのいらっしゃる地を想われた様です。
大阪には樟の巨木はたくさあるんですがサワラはないですよね、とお話させていただきました。
こういったコミュニケーションも、巨樹が結んでくれる現地での楽しみの一つです。ふれあいはいいものです。縁を感じますね。

しかし、油断してはいけません(笑)。周辺の写真は出していませんが、ここは結構デンジャラス!!
すみません、集落がデンジャラスなのではなく、道を間違えるとデンジャラス!!なのです。

愛知の山間部の巨樹には後に紹介する切越の夫婦ヒノキもそうですが、「ほんまにここ通って行くの?大丈夫なん?!帰ってこれるの?!」みたいな言葉が、一人巨樹探訪に赴く自分の頭の中をぐりぐりと駆け回るような道路を通る事がしばしばあります。

ここ、有洞のサワラもその一つ。

サワラの目の前は十分に対向可能な程の道幅がありますが、そこまでが問題です。
私は事前の情報があったため、なんとかデンジャラスゾーン!には遭遇せずにすみました(といっても、念の為行ってみましたが・・・感想は後ほど)が、まず、普通のドライバーならば通る気にはならないでしょう。

というのは、つづら折れな上に、もちろんのことガードレールなどがない崖がタイヤのすぐそばである車一台ギリギリの崖道を登っていくことになるのです。
一度登ったらバックはできません。
いや、できる自身のある人は登るでしょうが、まぁ、普通は登る気にならないでしょう。よほどサワラに会える確信のある人以外は。

私も念の為サワラの撮影の後に下見(?!)に向かったのですが、なんともデンジャラス!!
たいがい運転に自信がある私でも、サワラから南下して主要道に出る方向では下りになるので、その勾配のある崖道を途中でバックして何度かステアリングを切り返しながら戻る(しかも自家用のマニュアルミッション車!!)根性がなく、それでも30mほどバックして戻りました。

ですから、もしここへ向かわれる場合は、南側に位置する加茂水力発電所の方が崖道になりますので、それより北側の足助中学校側の道から入られることをお勧めします。

今日の様なさわらかな天候が、少しでも永く続くと気持ちいいんだけどなぁ・・・

有洞のサワラ 4































有洞のサワラ所在地

愛知県豊田市有洞町乗越40付近(先は地図上での付近住所。向洞表記のところもあります。)
駐車場なしですが、さほど車通りは無いはずですので、端に寄せておけそうです。



トラックバックURL
コメントを書く




情報を記憶: 評価:  顔   星