2011年11月15日
畏怖すら感じる、高井の千本杉
杉の学名はCryptomeria japonicaです。
「日本」という言葉と、「隠された・覆われたもの」という言葉がはいっていることから、「杉は日本の隠された宝物」と、雅に訳す事が多いですが、(一説には、球果が葉で覆われていることからきたものだそうです。)拡大解釈はともかくとして、我が国日本には、一般的な建築材料としての杉材から花粉症としてこきおろされる杉林まで、本当に多くの杉を抱えています。
当然それらは自然の財産であるのですが、それらとは一味もふた味も違った「本当の財産」といえる杉が多く残るのも日本の特徴です。
それは屋久杉や杉の大杉など、全国に聳える巨樹達です。

今回は、この写真の巨樹にあってきました。
これは奈良県にある「高井の千本杉」と言います。
その名の通り、千本!とはいかないまでも、天を貫くかの如く幹と枝を伸ばしている姿はまさに巨樹。

近づくとこのようにまるで剣山のように幾本もの幹がつきだしているのがわかります。

盛り上がった瘤や、それこそSF映画で森の木々が襲ってくるかのような恐ろしい位の迫力があります。

この巨躯となんとも言えない容姿をもつこの高井の千本杉、実は合体木だそうです。
なぁーんだ一本の木ではないのか、というなかれ。
ここまで見事に、しかも異形ともいえる様相を呈するようになるものは、如何に合体木といえどそうそうはないはずです。
それに、この高井の千本杉には「曰く」があります。
今までの写真のアングルは、この巨大な千本杉が2本の道の間に位置するため、上側の道路から撮影していたので見えなかったのですが、下側から撮影すると、きっちりとした鳥居がある事がわかります。

杉をメインにしているため、失礼ながら鳥居が傾いて写ってしまいました。
このように鳥居があり、中には祠の様に祭られているのが見てとれます。
実際は蜂が生息しているので、祠にはほとんど近づけませんでしたので、詳しくは見えなかったのですが、この巨木の由緒はそばにきちんと残されていますので、確認することが出来ます。


実はこの千本杉、井戸を祀る井戸杉です。
由緒書きにもありますが、もともと井戸を囲んで密植された杉がいつの間にか株を合わせたものだそうです。
「千杉白龍大神」とともに祀られている井戸は現在は空井戸だそうですが、地元や県外からも参拝に訪れる事もあるほど大切にされているそうです。
主幹は推定樹齢500〜600年(環境省には700年とあるそうですが・・)だそうです。
堂々の巨樹です。
実は、この千本杉に訪れた時、私だけではなかったんです。
といいますか、他の方がいらしたので、到達できたと言った方がいいかもしれません。
というのも、ちょっとした山の中に位置するため、住所というものではなくその存在の情報だけでこの巨樹を探していた為に、「これ以上車で入るには危険・・・・」と運転慣れした私でも思うくらいの道に入ってしまい、あきらめきれずに車を停め、徒歩で先を目指したのですが、それでもなかなか現れない。
もう諦めようかと思っていたところ、同行していた長男が「そこに人がおる!!」というんです。
まさか、こんなところに人が?!!襲われへんかろか?????と少々不安になりながら上り坂を登ると本当に人がいました。
それもご夫婦で。
とりあえず、身の危険(?!)は回避され安心したところに飛び込んできたのが、やっと会えた、この高井の千本杉だったのです。
そのご夫婦も、この巨樹に会いに来られたそうですが、この方たちがいなければ、あきらめて帰っていたところでした。
そうしてやっと到達した千本杉。
当然、由緒書きも見る暇なく息子に「僕、写真撮るのにあそこに登ってみ。おっちゃんらもさっきそれで写真とったんや。」と。
そう言われても、この異形に畏れ慄いていた私は、「こんなん、足かけたら罰(ばち)当たるで・・・」と心の中で思っていたのですが・・・・

おいおい、我が子よ。
気が付いたら既に走っていっとるやないか・・・・
しゃーないなぁ・・・と、いつもの儀式(以前までの巨樹巡礼の記事の写真を参照してね。)を執り行いながら比較写真撮影に移るのですが、「ご主人も登らはったらわ!」との声がかかり・・・・

登ってもーた。
しかし、見よ!この巨躯。
このまま取り込まれてしまいそうな感覚。
カッコつけてますが、もうサブイボ(大阪弁で、鳥肌の意)出るくらいビビってます。
夏に訪れたのに、ひんやりしているので、余計にサブい。

当然ながら、一本の幹でさえ私をはるかに凌ぐ大きさです。
杉は元来より水を好む樹種です。
その為、杉の木の含む水分量は桧などの他の針葉樹に比べても相当多く、そこが建築や素材にする折に巧く乾燥させる技術が必要とされる所以です。
が、その性質を利用して、以前は水源を呼ぶために井戸の周りに杉の木を植えるところがあったそうですが、この千本杉も水を集める為の井戸杉だったのでしょうね。
伝わるところによれば、日本最古の井戸杉だとか・・・・

離れて撮影。もうそれらだけで林の様相を呈しています。
実際は、外国にもたくさん巨樹があり、日本の巨樹よりも大きいものも多数あります。
が、この国に残る巨樹達は古来よりいろいろと信仰されていたり、この井戸杉の様に人々の生活に近い性質を持っていたり、又は今では珍しい樹種も含めその樹種が豊富であったり、特別な由緒のある木々が多くあるのが我が国です。
巨樹と一口で言ってしまうと、単なる大きさ比べの様になってしまいますが、彼らに実際にあってみるともう、その存在だけで素晴らしく、どこのが大きいとかいう単なる大きさ比べには関心が無くなってきます。
なんでもすぐに入手でき、仮想体験できる世の中だからこそ、直に彼らの存在を感じる意義は大きい!
そう感じるのは材木屋だからではないと思います。
また一つ、忘れられない出会いが増えました。
因みに、この千本杉の近くには国の天然記念物に指定されている「八ツ房杉」と、個人宅に聳える「片岡家のケヤキ」があります。
桜の時期には仏隆寺の千年桜も、ほん近くです。
廻る元気のある方は、奈良の一日巨樹ツアーを組んでみるのもいいかもしれません。
くれぐれも、巨樹や所有者等に対するマナーは守ってくださいね。

高井の千本杉所在地
奈良県宇陀市榛原区高井679
仏隆寺の標識のある狭い登り坂から進入すると、私の様にえらい事になりますので、下側の鳥居の方に回られる事をお勧めします。
時間の都合上、下側の道(伊勢本街道のようです。そちらの津越の辻に案内看板があるようです。)を詳しく探れませんでした。そちらからなら、車も進入可能です。