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陽疾(あて)の話


「陽疾」。
読み方わかります?!

普通は使いませんね。
木材業界の言葉です。

これは「アテ」と読みます。(おそらくあて字です。)
アテのある木は癖があり、木が通直ではないことがほとんどです。

大概の材木屋サンはこれを聞くとドキッとするんではないでしょうか。
私もまだまだ若い時に(今でも若いですが・・・)、「このアテ木はここには使えんなぁ。」といわれて交換に走ったもんです。
あ、最近の材木屋サンは集成材がほとんどだから、アテなんていわれることないかな・・・
とはいっても材木屋にとっては、曲がりや反りが出て「あかん(ダメ)な木」の代名詞のような印象で受け取られることの多い言葉です。
それを利用?!して、曲がり材などをすぐに「アテだ!」といって使おうとしない方もいらっしゃいますが、ただの曲がりとアテは違いますから、混同しないように・・・
混同する方に会うと、3月の記事の様に一方的に木が悪い!としか言わなくなってしまいますので注意が必要です。


さて、本題の陽疾・あて(ややこしいので以下はアテとします。)ですが、これらは製材や乾燥で起こる曲がりや反りとは違い、生育途中の要因によって起こるものです。

木は生き物、いつも申し上げている通りです。
ですので、生育場所や環境により木にも癖や性格があります。
法隆寺宮大工棟梁の西岡常一氏も、木は癖を見て適材適所に。木組みは木の癖組みだ、というようにおっしゃっていたそうです。(完全にアテのみをさしておられるのではないと思いますので、ご注意ください。)


その「アテ」なんですが、それはどうやってできるのか。

想像してみてください。

木の生えているところは主に山ですね。当然里などの平坦なところもありますが、天然では基本斜面に芽吹くはずです。
すると、芽吹いた木は斜面であるにもかかわらず、地球に対して垂直に伸びようとします。
そうすれば当然、斜面に面する根元は湾曲し、その部分に「アテ」の元ができます。
因みに、植木鉢に生えている木を植木鉢ごと横に寝かしていると、鉢の中の木は幹や枝を正しく維持しようと少しずつ、植木鉢の向きとは違った方向、つまり重力に反して空の方へ向いて伸びていくそうです。
私も実験したことはありません。どなたか実験お願いします。


つまり、アテは重力の作用で成長素が斜面の谷側に偏り、そちらが肥大成長するためにできるということがいわれます。
その肥大成長で、垂直に伸びるために、自分を支えているのです。
また、アテは太陽光の刺激でも生じるといわれることから「陽疾」でアテといわれています。

光によってもアテが生じるといいましたが、そのことを考えると、本当は自分の使う木が山のどの方向に生えていたか、どちら向きの山かということで日照などを考慮しないといけないのが本当のところですが、現実はそこまでの追及は難しいかもしれません。
が、昔から、「木を買わずに山を買え」というようにいわれますから、科学的根拠というよりも、生き物として扱った場合の心構えとしておいた方がよいのも事実ですね。
山一つを見て、その中で生えている場所や環境の違いを見極め、伐採後もなるべくその育った環境から異なる条件にならないように使う。
位置や方角などですね。

以前に、お寺の新築後すぐにお邪魔した時に、本堂の大屋根の部分の化粧柱が割れているのを見ました。
皆さん、太陽があたりすぎる様な方向ではないのに、どうしてか?と言っておられましたが、もしかすると先に述べたその木の育った方角と、加工後取り付けられた方角の相性が合わなかったのかもしれません。

今年話題になっている「平城遷都1300年祭」の会場で、復元されて有名な朱雀門も、柱がバッリバリに割れていたのが残念なところですが、それにも、もしかしたら上記の様な理由が少しは作用しているのかもしれません。


また、一口にアテといっても、杉や桧などの針葉樹とタモやナラなどの広葉樹では、アテの出来が違っています。
難しく言うと、「針葉樹は圧縮側、広葉樹は引っ張り側」にアテが生じます。
つまり・・・

アテ生成の違い














下手な絵ですが、右が針葉樹で左が広葉樹の場合です。
斜面に向かってのアテのできる方向が違います。
同じ植物である樹木ですが、針葉樹と広葉樹とは細胞組織などからして異なりますから、これくらいの違いは出来て当たり前かもしれません。


組成がわかったところで、アテの性質ですが、以下の様になります。
まぁ、優れた材ではないことは確かなので、欠点といえばそうなります。嫌われてしまうのも仕方なしでしょうか・・・

まず針葉樹は

・細胞壁にらせん状の亀裂が入る
・縦方向の収縮が大きく、正常材の3〜5倍また最大25倍にもなる
・重く硬い割に強度が低く、加工しにくい
・セルロース少なくリグニン成分が多く、パルプには不向き

というような性質です。

広葉樹は

・繊維に亀裂
・縦方向の収縮大(横方向は比較的少ない)
・針葉樹の場合と同じく強度は低い
・広葉樹は膠質繊維の為、カンナ加工でケバが出やすく、ノコも受け付けにくい
・セルロースが多く、リグニンが少ない

ということです。
一般に色艶や木目が特徴的なので、判断できることがあります。

細胞云々や、成分については顕微鏡の世界かと思いますがここで材木屋さんですら誤解しているのが

「アテは重硬だから強度が高い」

と思いがちだということです。

一般的な考えとして、重い木材は強度も高い傾向にありますが、アテ材は先に述べたように繊維や細胞に亀裂があるからでしょう、重厚な割に強度は低くまた加工しにくい上に、狂いやすいのが特徴です。
曲がりや反りを削り取ってもすぐに同じ方向に曲がってくるくらい、すごい性質をもっています。

そんな欠点材として排除されがちなアテ材ですが、人間にも癖があるように、その木材の癖アテもそれ相応の使い方、「適材適所」に使わないといけません。
たとえば、強度の求められない様な所や、装飾性の関係のないところで使うなどです。

これからは、アテという言葉を聞く機会も更に減っていくかもしれませんが、これも木の性質として理解していただかないといけないことの一つであり、誤解の多い事でもあるので、この機会に覚えてください。
くれぐれもどこぞの職人さんみたいに間違えて使わないようにしてくださいね。




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