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そこにある記憶をつなぐ 〜佐狩の大椋〜

私が巨樹巨木を紹介する機会は、拙記事だけではなく材木屋さんの組合誌という場所も与えて頂いているのですが、双方において迷うというか、毎回決めかねるのがどんな樹木を紹介するか、ということ。
まだまだ訪問地には偏りがあり、巨樹サイトを運営されている方々に比しては貧弱なレパートリーではありますが、自身がその場で感じたことや空気感、そして二度と訪れることはないだろうと思いながら眺めるその景色は、他の方々の見たそれとは必ず異なるはずだと思い、自分なりの言葉でお伝えできるような訪問を心がけています。

それでも迷う、というのはやはり写真や言葉で伝えるためのインパクトを持った樹木を選びがちになるから。
単刀直入に、巨木感を感じやすいものばかりを取り上げたくなる、ということです。
巨樹巨木、というからには樹木としては驚くほどのスケールを持つものである、というイメージが浮かぶはず。
そのため、写真においてインパクトのあるものが思い浮かぶのです。

でも実際に巨樹巨木に訪れていると、スケール感だけではないストーリーを得る機会が多くあります。
それが地元の人や所有者さんとのお話し。


巨樹の所在地には、山中もあれば社寺仏閣もある。そして個人所有地内である場合も・・・
その場合はもちろん、所有者さんにお声かけをして見せて頂くわけですが、多くの場合非常にご丁寧に迎えてくださり、親切にお話をして下さるのです。
今回は、樹木のスケール感だけではない「お話」をお届けしたいと思います。

佐狩の大椋 2

緑豊かな山あいの集落。
道路から少し高台になったお宅の敷地内に、お目当てのムクノキがありました。
事前の情報で、大まかな位置(というか、近年はほぼドンピシャ)を把握していたものの、周囲の緑に紛れて確認できずご近所さんと思われる方にお声かけをして聞いてみると、所有者さんを呼んでいただけました。

出てきてくださったのは少し足腰が弱られたおばぁちゃん。
あぁ、朝早くからもうしわけないなぁ・・・、そう思っている私だったのですが、とても親切に迎えてくださいました。
そして、ムクノキの場所を尋ねたのですが「そこの畑の上ですよ、行ってください。私は足が悪くてもういけないんですよ。」とのこと。
そちらを見てみても、今一つピンとこない。

佐狩の大椋 1


周囲の草や竹が伸びているうえに、想像している巨木感と異なることで、見つけられない。
えぇっと・・・・・という雰囲気を出していると、歩行補助の車を押して一緒に行って下さる。
畑のぼこぼことした土の上を少しづつ一緒に進んでもらいながら、その場所への入り口へ。

後で聞いた話ですが、イノシシが非常に多いということで畑に入ってこない様に柵をされています。
「さぁ、柵を開けて行ってください」といってくださり、どこまで登ればいいんだろうと思いながらくぐっていきます。
おばぁちゃんは、もうこれ以上は登れません、ということでご案内はここまで。

佐狩の大椋 9


柵を開けて坂を上がると、小さなたてものの傍にその姿が見えてきます。
まったく距離はありませんでした。
近づいてなるほどのムクノキ。


佐狩の大椋 6


確かに大きいのですが、ムクノキに多い幹の根元がスカートの裾の様に広がっている樹形で、胸の高さ近辺では想像したほどの迫力を感じにくいこと。
そしてそれ以上に、大枝や古い枝が少なくどちらかというと非常に若い枝が勢いよくのびている為に、古木感も少ないというのが正直な印象。

そのために、いつもの巨樹を探す目には周囲の樹木とどうかして分かりづらかったのだと感じました。

それにしても、どうしてこんなに若い枝が旺盛に?!。
そう思っていた時でした。

上がってきた道から声が聞こえる・・・あ、おばぁちゃん!上がってきてくれてる(驚)。大丈夫・・・?!
上がられへんと言っておられたのに、少しづつ上がりながら「立派な木でしょう!?」と。
昔は年に一度、村で集まって収穫のお祭りをしていたそうです。確か、その時にムクノキの隣にある小屋を使っていたとおっしゃっておられました。

懐かしそうにお話をされるおばぁちゃん。

お話を聞いていると、さきほどの若い枝に関すると思われるお話を聞く事が出来ました。

ムクノキの幹には、地面に近い部分に大きな洞が見られます。
巨樹にある腐れかと思いながらも若干焦げたように黒くなっている。

佐狩の大椋 11


昔、この洞の部分に「テン」が住み着いたそうです。
そしてそのテンを追い払うために近所の男性が洞の部分で煙を焚いて燻したそうです。
ところが、その煙から出た火が幹に燃え移り、消す事が出来ないまま3日間燃え続けたそうです。
その間も、周囲に燃え広がらない様にムクノキの前で寝泊まりをして「守をした」とおっしゃっていました。

その時の名残で、幹が黒く焦げているのだそうです。

一体どれほどの火が出たのかは不明ですが、おそらくその時の影響で幹が相当弱ってしまったか、大きく伸ばしていた枝の大部分を損傷したのではないかと推察しました。
その影響で、樹木の防御反応として少しでも力を持った枝を早く形成しないといけないということか、もしくは怪我を治す新陳代謝の様な状況かで、新しい枝が多く出たのではないかと思うのです。


佐狩の大椋 4


こんなお話が聞けるのは、本当に現地で交流出来ることから生まれるもの。
単にその巨樹の写真を撮影するという行為だけでなく、その場所で起こったことやその時の状況や心情まで、当事者から話を聞く事が出来る。

巨樹にはたいてい案内板が掲示されていたりしますが、読んで知ることはできても生の声を聞くこととは大きな差があります。
そしてそのお話を聞きながら眺める木々には、その巨さ以上の魅力を感じます。

ムクノキの隣の小屋には、岡山市の天然記念物に指定されたときの指定書が飾られていました。
ここでみんな集まってね・・・・、と昔のお話をしてくれるおばぁちゃん。

いろんなお話を聞く事が出来ましたが、この大椋の隣にももう一本ムクノキがあり、集落の中には他にも曲がり大師のムクノキもあり、どうしてムクノキが多いのかを尋ねることを失念していました。

巨樹を尋ねる楽しみは、写真を撮る事や感動だけではありません。
こうしたお話を生で聞くこと。
そして巨樹を前にしてそのお話とともに当時の事を思うこと。
人の声だからこそ、人の心に伝えられること。
そんな、人から人へのつながりも少しづつ少なくなっていきます。
人口が減少し、集落から若者が都会へと出ていく。もちろん、悪いことではありません。
しかし、今おられる世代の方たちの次の世代はもうここにはおられないのです。
巨樹を訪ねても、目の前で言い伝えられることはなくなる。

おばぁちゃんが少し寂しそうに、合いに来てはくれるけれどもみんな出て行ってしまってね・・・とおっしゃっていたのが、非常に印象的でした。
木々の命は人間より数倍以上永いもの。
その存在で、伝承されるものもありますが、人と人とで伝わるものが少しづつ消えていく。
材木屋の伝統や無垢材の扱いのこと、そのほかの技術を持つ仕事などにも少し似たところがあるのかなぁ・・・そう思ってしまいます。

佐狩の大椋 7


おそらく、昔はもっと立派で周囲も整備されて、その姿を誇っていたのだろうと思われるムクノキ。
今はなかなか手を入れられない現状を物語るように、クモの巣が縦横に張り巡らされ、足元にも周囲にも他の木々が繁茂しています。
おばぁちゃんが維持していくには、非常に大変なことと邪推します。
その瞬間だけそこにいる私と、昔も今もこれからもムクノキと一緒にいるおばぁちゃん。
無責任には、ムクノキを大切にして、とは言いにくい状況ではありましたが往時のお話を聞く事が出来、大変有意義な訪問とする事が出来ました。
サイズだけでは語れない巨樹のお話。それが佐狩の大椋。

そして、御礼を述べて帰ろうとする私に「これしかないんよ・・・」と言いながら持ってきてくれたコーヒー。


佐狩の大椋 5


良く来てくれた、と迎えてくださり帰りの喉の渇きまで心配頂いた温かさに、日差しの暑さを忘れて感激。
来年も再来年もその次も、どうかお元気でムクノキへの訪問者を受け入れてね。
お話忘れないよ、おばぁちゃん。
ありがとう。


佐狩の大椋所在地
岡山県北区建部町鶴田(必ず、お声かけをしてください。)

コーヒーの後ろに見えるのが、敷地への進入路ですが他家の方も通行されるので、上がらずに下の道路に邪魔にならないよう駐車するようにしたいです。



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