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初めての遠征で初めての感激 〜加茂の大クス〜

さて、皆さん。
本日1月7日より、弊社の令和2年の通常営業を開始いたしますので、本年も一年よろしくお願い致します。

毎年年始の営業初日の記事は、巨樹巨木の日本一を紹介してきているのですが、さすがに日本一ばかりを追うこともできませんし、今年はこの後に紹介する記事の都合もあって、「日本一だと思っていた」巨樹を紹介することにします。


現在、各地方からもいろいろとお問い合わせをいただくほどに、全国の木材を扱うようになり各地を訪問する機会も増え、木のことも一般の材木屋さんよりはある程度分かるようになったと自負してはいますが、正直つい20年ほど前までは、恥ずかしいくらいに無知なものでした。
もちろん、ある程度業務に差し支えない知識は持っていましたし、それなりの事は知ってはいましたが、インターネット検索も普及しておらず、知識を得るソースが少なかった時代ですから、求められることも少なかったこともあり、自身の周りのことしか見えておらず他の地域の事は殆ど知らないも同然でした。

そんな時期、初めて遠方にでる機会があり、無知だった私でもその名を聞いていた木に逢いたい、と思った一本の巨樹がありました。
それが今回紹介する、加茂の大クスです。

加茂の大クス 2
(右に移っているのは外国人旅行者。老夫婦がクスを目当てに来られたらしい・・・)


淡路島を経由し鳴門方面から東西に走る徳島自動車道を西へ向かい、北も南も険しい山に囲まれた徳島県三好郡へ。

当時は初めて、と言ってもいいほどに自身で企画をして山や製材を回るということを行動に移したその時に、日本一の巨樹に逢ってみたい、と思ったのはある意味当然でした。
外の世界を知らないカエルが、ぴょんと外へ飛び出すと未知の世界が大きく広がり、想像してもしきれない巨樹という存在にあこがれていた時期。

特別巨樹ばかりを巡っていたわけでもなく、今の様にネット検索をするわけでもなかった当時、「かもうの大クス」なる巨樹があるようだ、ということしか知らず、しかもそれが訪れる予定の徳島県にあるらしい、ということで期待に胸を膨らませて向かったことを、今でも覚えています。

因みに紹介する写真は近年撮影のもの。
当時はデジカメの性能も良くない上に、写真になれていなかったもので、掲載できるようなものではありませんでしたので、あしからず。


徳島県での用事を済ませて、人づてに聞いた通りに向かった先にあったのが、開けた土地に孤高にたたずむその姿でした。

加茂の大クス 1


何とも雄大で美しい樹形。
解説板の「一樹、森を成す・・・」というのも大げさではなく、立派であることを森と例えたくなる気持ちも理解できます。
樹齢1000年以上、幹回り13m、枝張り東西46m。
日本一であるとの表記。

巨樹としての迫力では、様々な樹種の上でカツラが印象に残るものが多いのですが、カツラの巨樹の場合は「ひこばえ」が多く、1本の巨大な幹という印象ではなくて異様に大きな剣山という状態なので、単幹での幹周り13mは立派です。
また、その雄大な枝ぶりは、「この木何の木」のモンキーポッドを彷彿とさせます。

その大きさと見事な枝ぶりで、数少ない「国指定特別天然記念物」に指定されています。
以前にも杉の大杉でお伝えしたように、天然記念物の中でも「特別」がつくものは非常に珍しく如何にこのクスが貴重なものかということが分かります。

加茂の大クス 7


巨樹巨木にはつきものではありますが、一時期樹勢が弱った時期があったそうです。
広大な広さを確保されている当地も、昭和に入り農地や宅地の開発が進んだ時期があり、その時期に弱りが見えたそう。
しかし、周辺の農地を公園化し(それでこんなに広々としているんだ…)、治療も施して樹勢が回復。
驚くべきことに、東みよし町の産業課のホームページによると、樹勢回復後には解説版記載の幹周りからさらに太くなり、2007年には16.72mになったというのですから、なんとも素晴らしい回復力

幹回りの表記や計測にはいろいろな基準や計測がありますから、一概には何とも言いにくいところですが、数字に納得できる迫力と生命力は十二分に感じることが出来ます。

特別、という冠のつく巨樹は珍しいのですが、それは日本一なんだから当たり前!と当時の私は思っていました。
だって、「かもうの大クス」が日本一だと聞いていたんだから。

それは間違いではありません。たしかに「かもうのクス」は日本一なのです。
しかし、そのクスは当地のクスではありませんでした。
なんと!、「かもう」違いならぬ「かもう」と「かも」の勘違いで、当地のクスではなく正しい日本一は以前にも紹介している「蒲生のクス」だったのです!!


加茂の大クス 10


無知というのは恐ろしいもんですね。
解説版にも書いてあるものだからてっきり、これが日本最大の巨樹であるクスノキだと思い込んでいました。
情報をもたないということは、情けない話です。
しかし、双方ともに「特別」天然記念物にしていされていますから、当地のクスも数ある日本のクスの巨樹のなかでも非常に希少な存在として認知されているという証拠。

幹周りでは、当地よりも巨大なものは多く存在しています。
クスノキの場合は特にですが、我が大阪府の誇る「野間の大ケヤキ」と比較しても、幹回りは大きく変わらず。
それでも、筋肉質で武骨な太さを見せるくびれではなく、「女性特有の美しいくびれ」を想像させる加茂の大クスは、やはり特別天然記念物にたる姿を私たちに見せてくれるのです。

加茂の大クス 4


その美しくくびれた幹の上に、「傘を広げたように」と称される見事な枝ぶりをもっている加茂のクスは、近づいて見上げたりじっくりとその幹を観察したりという楽しみももちろんあります。
しかし、それ以上に贅沢な接し方は遠くから、その全体の姿を眺める事だと思います。

先に書いたように、加茂の大クスの周辺は公園化されていて、広場の様な状態です。
そのため、近くにいることで巨樹に圧倒されるような雰囲気も感じられるのと同時に、ほぼ 360° どの角度からでもその見事な姿を一望できる場所になっています。

大クスの為の周辺整備をしていただいていることが、結果的にその美しい姿を十二分に味わうことのできる空間を作ってくれているみたいです。

加茂の大クス 13


私が加茂の大クスに最初に出逢ったときからすると、ある程度は様々な木を見てきましたし、製材所を回ることも普通になり今では、片道数百kmの道のりも日帰りでこなすほどの出張族になりました。
その間、巨樹にも多く出逢ってきましたがやはり、これほど訪れる人にとっての好条件がそろっていて、なおかつ立派な巨樹というのはなかなかあるものではありません。

だからこそ、最近になってもう一度訪ねたい!という思いになったのでしょう。
本来の目的地は、ここからさらに険しい山を越えていかなければならないところにも関わらず、20年ぶりの再会を果たしにやってきたというわけです。

そんな気持ちをもっての訪問は、「また、逢いに来てくれたんだね」と大クスが迎え入れてくれているような、だれもいない広い空間での公然の逢瀬。


加茂の大クス 14


誤解から始まった加茂の大クスとの出逢いは、後の私の巨樹巡りの出発点と言ってもいいのかもしれません。
そこから少しづつ樹木や木々に関する知識を付けて、今回戻ってくることが出来ました。
今眺めても、最初に出逢った感激を忘れることはありません。


激しく変わろうとする木材の業界の波にさらされることになった現在に、まだ若かった自分の記憶をよみがえらせもう一度フレッシュに送り出してくれるような、そんな気持ちになりました。

次の予定には十分すぎる滞在時間を見込んでいたものの、時間の経過をすっかりと忘れてしまっていました。
去るに惜しい気持ちで振り返った時に見せる大クスの姿は、別れる涙の雨の中で傘をさす恋人の様な姿に見え、人生の限りある時間の中でここに2度も来ることが出来た幸せを、再度感じさせるのでした。

地域のみなさんと、いつまでもその美しい姿を維持してほしい。
そう願って、私はまなざしを目的地である山向こうにうつすのでした。



加茂の大クス 15


加茂の大クス所在地

徳島県三好郡東みよし町加茂1482

駐車場あり、トイレあり


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