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人工の天然美 〜花脊の天然伏条台杉〜

千年の都、京都。

自身が隣の大阪にいても、やはり京都は少し特別な場所。
もちろん、奈良も歴史をみれば特別なのですが、京都の文化や特有の土地柄などは他の地域とは少し異なったものがあると思うのです。

その京都市街から北、鞍馬寺の更に北にある花背地区に今回お目当ての杉が生きています。
今まで紹介してきた杉の巨木の中には、まっすぐに美しく聳えるもの、特異な樹形をしているもの、根に特徴のあるもの、最大・最高のものなどなど、色々とありましたが、今回紹介する「天然伏条台杉」は以前に紹介した「21世紀の森の巨大株杉群」以来の衝撃でした。


台杉や株杉といわれる、地面から立ちあがる1本の主幹に対して、多くの細い幹が伸びているものがあることは御存じでしょうか?
現在でも、日本庭園の中などでは見る事が出来る見事な仕立ての杉ですが、以前から「磨き丸太」と称される、綺麗に皮をはいで表面を磨いて丸太のまま使用する木材が生産されてきましたが、特にその生産が活発だった京都の地域ではより効率的に磨き丸太を生産出来る様に「台杉(株杉)」と呼ばれる手法を用いていたと言われます。

実際にその姿を見た私は、なるほど効率的!と納得するとともにとても人工的な形に、少し違和感を覚えてしまいました。

しかし、現在では丸太を使用する建築が少なくなるとともに用途が減少したこともあってか、おそらく台杉は精力的には生産されてはいないのではなかろうかと思います。
そんな中、人里の奥の山中に想像を超える台杉が存在しています。

偶然か必然か。
実は、見事な天然伏条台杉は個人の方の所有物です。
その為なかなかお目にかかる機会はないだろうなぁ・・・と思っていた矢先に、丁度その台杉に逢いに行くという山登りツアーを発見。
これはやはり必然だ!とすぐに申し込み、当日駆け付けたわけです。

するとどうでしょう。
目的地の遥か手前でこんなものが・・・

花脊の天然伏条台杉 7

まだまだ歩いていません。
入り口です。
出迎えてくれているかのように、腕を広げて、まるで太陽の塔の様です!
一体どうなるのやら?
これを素通りするということは、相当すごいのか・・・

と思ってブツクサと独り言を言いながら歩いていると、またこんなのが・・・

花脊の天然伏条台杉 8
 

あきません。
もう、いちいち反応しているとキリがない位に、これくらいの大木奇木がそこかしこに・・・
これらを見ないふり(一応見るんだけど)をしながら、少しずつ勾配のきつくなるけものみちを登っていきます。
もう少し楽なハイクかと思っていたのですが、予想以上に険しいし距離がある。
デスクワークですっかりとなまった体には厳しい・・・
縄文杉に逢いに行った健脚はどこへやら・・・・
そんなことを思いながら小1時間ほどか歩き、茂みを分け入った先にやっと出逢えました!!

花脊の天然伏条台杉 1

どのような状態か、写真から想像できるでしょうか?!

燃え立つ炎が静止画になったような、登山中に見てきた今までの奇木が普通の樹木のようにでも思える様な、異形がそこにありました。

花脊の天然伏条台杉 10

かなり傾斜のある場所にある為、眺める角度によってその姿は大きく変わります。
そのため、様々な角度で撮影を!と思うものの、実際の現場は台杉保護の為ロープ柵がめぐらされている(当然)ことと、下草が繁茂しているために思ったよりも写真に収めづらいのです。

また、全体像を捉えようとして引き気味に構えると、今度は周囲の樹木が映りこんできてうまくいきません。
そのため、広範囲にわたるロープ柵の周囲を歩きながら少しづつアングルを探っていきます。

花脊の天然伏条台杉 11

そう、下側からはこんな感じです。
道にロープがあるのがお判りでしょうか。
これを手繰ってもぼるくらいにきつい傾斜!
本当は、このアングルから撮影したいのですが、ここも繁茂に邪魔されてしまってうまくいきません。
いや、これが自然。

この天然伏条台杉、このような姿になるには数百年の時間は必要だと想像しますが、周辺の杉を伐採した時の年輪から推定された樹齢はおよそ1000年だそうです。
その数字を聞いても特段驚きませんよね。
だって、この姿だもの。

しかし、いつからこのような姿になったのかは、とても興味深いところです。
人間が関わった記録が残る植林はおよそ400年〜500年前。
もちろん、それ以前にも様々な理由で植林や森林利用があったとは思いますが、もし現在知られているような人工的利用の台杉として生き延びてきたのなら、過去の人たちはどのようにしてこの台杉と付き合ってきたのか、不思議なところです。

花脊の天然伏条台杉 2

解説板などがないので、市の指定の文言から引っ張ってきた数値を参考にすると、樹高は20m程で、さほどの高さではないものの、胸高幹周が18,35m!ということで、単純にどこまでが主幹(?!)なのかと思わせる様な幅広さが印象的な個体です。

こんな状態の樹木を指して、胸高幹周というのもおかしな気がしますので、参考程度に。
しかしながら、もし名前の通りの伏条杉ならば、どの幹(枝?!)をとっても自分自身なわけで、それこそ桂や公孫樹の巨木に見られるようなヒコバエと考えれば、目撃した本人の感覚的な印象だけで、公表数値はどうでもいいようにも思えてきます。
(もちろん、文献保存的には価値があるのですが。)

しかし、本当に迫力がありますね。
巨大株杉群もそうですが、この姿はどう考えても自然の造り出した迫力としか言いようがありません。
株杉群との違いを強いていうのであれば、株杉群は立ちあがる主幹がある程度はっきりとしていること。
それに対してこの台杉は地上からの主幹が余り目立ちません。

花脊の天然伏条台杉 3

それがおそらく伏条更新(枝が地につき分身を作る手法)だからなのだと邪推するのですが、通常台杉というのは(この姿で通常、というのもおかしいけど)主幹の上の部分を切り取ることを繰り返していくものなので、主幹が残っているはずですが、この伏条台杉はやはりそういった傾向が見えづらいので、伏条更新にて大きくなっていったのでしょう。

いろいろな記事の中には、主幹上部が伐り取られることで萌芽更新したものだ、という見解もあります。
しかし、主幹がなくなっても幹から芽吹くその手法は、針葉樹では一部の例外種以外ないはずですから、もし上部がなくなった影響を受けて自然がこの造形美を生んでいるとしたら、針葉樹に多い「頂芽優勢」という性質が働き、成長点を失った時にもっとも優位な幹(枝)が伸びることが続き、このような樹形になったのでは?!と素人ながらに夢見ているのです。

花脊の天然伏条台杉 4


伏条更新を見せるこの台杉は言うまでもなく「芦生杉」と思われますが、この姿を見るとつくづく植物の生き抜く力やその品種の特性の優位点というものを思い知らされるような気がします。

とにかく素晴らしい自然の造形美を見せてもらいました。
もし、これが人々の生活とともにあった木々で、その手を離れて数百年以上生き続けているのだとしたら、今というほんの一瞬を生きる自分とは一体?・・・と自身に問いかけたくなる、そんな空気の中に居ました。

そんな禅問答のようなことを心の中で繰り返しながら、伏条台杉を後にしたのですが、どうも出口はすぐにあったようです。


花脊の天然伏条台杉 13

あぁ、問答の出口はここか!

否、冗談です。
しかし、思わずここをくぐると先の問答の答えがあるようで、いや、きっと自分の進む道の入り口に差し掛かったかのようで、自分の目の前に現れた異次元への扉をくぐって下界へ戻っていくのでした。

花脊の天然伏条台杉所在地

京都市左京区花脊原地町 個人所有の山中

*必ず守っていただきたい事

文中でも書いている通り、今回紹介している天然伏条台杉は個人所有の森林の中に位置しています。
そのため、所有者の許可なく立ちることはできませんので、所有者主催のイベントなどの機会が設けられているときに、許可を得ての入山をお願いします。
記事についても、なかなか訪れることのできない台杉を少しでも多くの方にお伝えする趣旨ですので、無許可の訪問は控えてくださいませ。



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