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鳥居は神域への門なのか?!  岩倉の乳房杉(ちちすぎ)

わたくしごとながら、先月より不定期で木材組合の紙面をお借りして、巨樹巨木に関するコラムを持たせていただいています。
木材や樹種についてもそうですが、いつかは「紙の媒体」で、インターネットの画面からは見ることができない様々な人の目に、私の訪れた巨樹の存在が知られる機会を持つことが、夢の一つであったのですが小さな一歩を踏み出した、という感じです。
もう、このブログの中での巨樹巨木の記事は、完全に業務ではなくただ皆さんに、私が訪れた木々達から受けた印象をお届したいという想いだけで続いていますので、仕事の事を話のタネにしなくてもいい分、自由に書かせてもらっています。

さて、今回登場の巨樹は日本の代表的な樹種である「杉」なのですが、およそ杉とは思えない様な姿であるそれをお届します。


日本の杉巨木の中でもっとも有名なのはなんでしょう?!
おそらく縄文杉でしょうね。
屋久島の事を語る時には、必ずと言っていいほど登場する縄文杉ですが、実は当記事には未だ登場していません。
皆さんご存じだから、とか私がしょうかいしなくても、とか色々と理由はあるのですが、太さや大きさでは譲るものの、ある意味縄文杉よりも「パワースポット」めいているのがこの、「乳房杉(ちちすぎ)」です。

乳房杉5


茂る下草、他の追従を許さないかの如くの異形、開けた空の輝きを受けて後光のさしているかのような存在感、そして天を射抜いてしまうかの如くの枝々。
様々な巨樹巨木を目にしてきましたが、驚くものや圧倒されるもの、または絵になるようなものなど特徴を持ったものの中で、「神々しい空気をまとったもの」というのはなかなかありません。
その「神々しい空気」を感じることができるのが、この岩倉の乳房杉です。

隠岐の島の中心よりやや西、大満寺山を横断する林道の途中に位置するこの杉は、「隠岐の三大杉」といわれる「八百杉、かぶら杉、乳房杉」の一つです。
島を紹介するガイドブックや情報誌にも必ず登場する(と感じる)ほど、島を代表する存在でもあります。
気になる人のためにお伝えしておきますが、ほかの2本の巨杉のうちの八百杉は「伝承と人との身近さ」を感じる境内にそびえる杉。
かぶら杉は、以前に私を大いにビビらせた「高井の千本杉」と同じように、根元で別れた太い枝が天に伸びる「沢沿いの杉」。
もちろん、それらも見ごたえがあるのですが、一線を画すのが乳房杉。

乳房杉1

私が訪れたときは日光の加減で空は明るいものの、山肌が薄暗く感じ幽玄さを感じるような佇まいでした。
観光ガイドの写真などには、霧のかかった様子や雪を抱いた姿などが紹介されていますが、それが違和感なく認められてしまうのは俗にいう「パワースポット」だからでしょう。

人それぞれの感じ方ではあるものの、近年のパワースポットブームもあり、なにか特別なものを感じることができる場所。
それは巨木であったり、伝説の地であったりするわけですが、私自身はそこで何かが得られるから、という理由ではなく自分の中の何かが目覚めるきっかけにできるかどうか、自分次第だと考えているので、正直場所にこだわったり巨樹からパワーをもらうというようなことは考えていません。
しかし、この乳房杉をパワースポットと紹介したくなるのには理由があり、その理由こそ、ここを「神域」に感じさせる理由でもあるのですが、とりあえず乳房杉の詳細をまず・・・


乳房杉10


乳房杉の樹齢はおよそ800年。大満寺山の崩落岩に根を下ろす異形は、日本の杉を大きく3グループに分けたうちの一つ「ウラスギ」に入ると解説されていますが、納得のその姿。
横に張り出す枝は力こぶのようでもあり、銛(もり)の鋭さのようでもある。
そして乳房杉の大きな特徴の一つであるのがその名の通りの「乳房」。

乳房杉8


当ページの記事では「常瀧寺の大イチョウ」などに代表されるような大きな「乳」が垂れているのがそれです。
通常であれば、樹木の枝などは上空に向かって伸びるもの。
それが正反対の地上に向かって垂れるように伸びている。
銀杏(イチョウ)のそれを含め一般的には「気根」と呼ばれています。乳房杉の解説板にもあるように、空気中の水分を取り込む役目を果たしたり、樹木の幹の支持を助けたりするものといわれていますが、この乳房杉もこの「乳」をつかって空気中の水分を得ているといわれます。

しかし実際、この気根と呼ばれる下垂状の乳は「根」ではなく、葉っぱのない「枝」だと言われています。
下方向に伸び、根を出して新しい枝を形成するためのものだという定義がされています。
ストーリーとしては、「乳の出をよくするために煎じて飲んだ」というお話や、「空気中の水分を補給する」といったほうが夢があるものの、実際の植物たちの事情はもっとシンプルで、生き抜くためのまっすぐな理由だけなのかもしれません。
興味深い世界です。


乳房杉6


どうしても今回の写真はこのアングルに固定されてしまうのが、少し見どころを欠くところかもしれませんが、それには理由があって、近頃の巨樹所在地と同じく、乳房杉には近づくことができません。
縄がはってあり、また入り込んでいけないからこそ下草も繁茂し幻想的な空間を維持しています。
そのため、もう正面のこのアングルしかないのです。
もちろん、現地にいれば光の具合や感じる風、鳥のさえずりや木々の揺れる音などで無限にその世界は広がりを感じるのですが、写真下手の私にはそれを伝えることもできないのが未熟なところ・・・

しかし、このアングルしかないからこそそこにおのずと人が集まるのですが、ここに立つからこそ、乳房杉を訪れた人々はこの場所が世で言われるところの「パワースポット」であることを「確信する」ことになるのです。

そのパワースポットたる場所はこの鳥居をくぐることで、「神域」への到達を感じさせるのです。

乳房杉9


決してたいそうな鳥居ではないものの、登山することなく自家用車の窓からも眺めることのできるこの乳房杉を特別なものとせしめているのが、この鳥居とその先の「神域」なのです。
ここを訪れた観光客はまず、目に慣れない大きさとその姿にまずは驚かされます。
しかし、本当に驚くのは鳥居をくぐったその瞬間。


「え?何?!!なんかすごい涼しい・・・というか冷気が・・・!!」
「うわぁ!!!パワースポット!マジで!!」

私が滞在していた間にも、7組ほどのカップルや家族が来られましたがすべての皆さんがその得体のしれぬ「神の気」にさらされた驚きを口にします。
本当にここは神の世界、神域。その神の依り代があの乳房杉か・・・・


そう信じたくなるほど、鳥居の先は別世界なのです。
しかし、そこにあるのは不思議な世界や霊の力ではないのです。
皆が感じる冷気(霊気?)の正体は実は「風穴」です。
最初の解説板を見ていただくと表記がありますが、実はここは岩石が崩れてできた場所。

乳房杉4

そしてその岩石の間を、年中大気よりも冷たい空気が噴き出していることにより、真夏であれば驚くほどの「冷気」を感じるのですが、風穴と言われる仕組みをしらなければ、スポットクーラーの強烈な冷気に似た風が自分の足元近辺に流れてくるのを感じた瞬間、目の前の巨躯に畏敬の念と神の存在を感じずにはいられない空間になります。

乳房杉6


神の冷気を感じた後に眺める乳房杉は、鳥居をくぐる前の数倍のありがたみを帯び、より一層大きく感じるのです。
言わずもがな、島の宝。


全国に巨樹の杉かずあれど、数少ない「神域」を想わせる岩倉の乳房杉。
ここで感じるのはパワースポットではなく、紛れもない命の宿る世界と自然の仕組み。


乳房杉7


岩倉の乳房杉所在地

島根県隠岐郡隠岐の島町布施

各地図にも観光案内にも場所が記載されています。山道ですが十分に道幅があり、乳房杉前には大きな退避場(駐車場?!)があり、数台駐車可能です。道路沿いから眺めることができます。


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