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神迎える楡から続く伝説の木 楡(ニレ) 樹木編


楡(ニレ。以降カタカナ表記)という樹種について、興味を持っていたり詳しく知っているという方はあまりおられないのではないかと思います。
街路樹の世界でこそ、プラタナスマロニエ・リンデンバウムとともに「世界4大樹木」と称され、街の景観づくりに貢献しているのですが、殊木材の世界に限っては多く語られることの無い「裏役」であるように感じます。

先日に少しさわりをお話しましたが、私が木材のことを深く知りたいと思うきっかけになった樹種の一つがこのニレで、それこそが「裏役扱い」されている者への興味といえば失礼かもしれませんが、だからこそ知りたくなった経緯があるものなのです。

楡(にれ) 英名を elm (エルム)、学名を Ulmus Davidiana (ハルニレ)

ニレ 1


英名はケルト語でニレを意味する言葉で、ハルニレを指す学名の Ulmus はケルト語の elm に基づくラテン語に由来しDavidianaは植物採集家の A.ダヴィットの名前からきているといわれるもの。
北半球に約45種、又は70種分布するニレ科ニレ属の落葉又半常緑ともいわれる樹木で、比較的大木になる(主にハルニレ)ことで知られている樹種。
日本語の「にれ」は、方言である「ネレ、ネリ」に由来しその樹皮を剥がすとぬるぬるしていて、その粘液を和紙をすく時の糊にしていた事からきていると言われます。

そしてニレというくくりの中にも正確には大きく3種にわけられていて、先のハルニレ以外に「アキニレ」と「オヒョウニレ」があります。
アキニレというのは、まさしくハルニレに対して花の時期が初秋であることから季節が接頭語として用いられている樹種で、学名 U.parvifolia といい「小型の葉の」という意味を含んでいる通り、葉っぱが少し小ぶりなのが特徴。
英名を chinese elm とし中国名も学名のとおり「小葉楡」(他あり)と称していますから、地域が変っても名前はある程度の共通性を持っている(学名などを元にしている場合があることも一因ですが)ということですね。
仲間であるケヤキに似る事から、イシゲヤキ、イヌケヤキ、カワラケヤキなどと称されることもあるのは、材木屋からするとちょっと可哀想に感じます。

ニレ 3

もちろん、ケヤキやハルニレの程の大きさにならないことや大きくならないと言うことは、代用される場面も少ないことも影響してでしょうが、木材の世界では「イシ○○」や「イヌ●●」という名は、決して良い印象では受け取られません。
「●●」に当てはまる部分の材種が優秀であり、それに対して劣っている(材質が硬くて加工しづらい、色や形は似ているが性質は異なるなど)というような場合に用いられるのが「イシやイヌ」の接頭語である場合が多いからです。

本当のところはそんなこと、使う人が気にかけて使えばいいわけで、一般的に劣っているという印象を与えるのはやはり残念です。

そしてもう一種はハルニレに混じって出てくることの多いオヒョウニレ。
英名 manchurian elm 学名をU.laciniata 学名は「割裂した」という意味で、オヒョウニレの葉が他のニレやケヤキなどの仲間に比べて割裂することがその由来です。割裂している様が矢羽根の様に見える事から、別名を矢筈(やはず)ニレとも言われます。対比して中国名も裂葉楡です。
葉っぱ以外の「オヒョウ(アイヌ名アツニ)」というのは樺太の土名が由来だといわれています。
ニレの中でもオヒョウニレの樹皮は強靭なため、その繊維を利用して丈夫で肌触りのよい厚司(あつし)が作られます。
そうです、前回の伝説に登場するアイヌラックルも来ていたという厚司です。

日本以外にもヨーロッパやアメリカでもニレの仲間は見ることができます。
ヨーロッパは西洋ニレ(elm)と一括されているようですが、アメリカではメープルと同様、ソフトエルムとハードエルムという分類があるそうです。
アメリカは国民性なのか、「硬いか柔らかいか?!」という二極分類が好きなようですね。それはそれで、一言で分かりやすくていいかもしれません。

ニレ 4


さて、ここで話を木材としてのニレに移しましょう。
はじめに、建築や木材においてのニレの知名度は低い、と書きましたがそれには理由があります。
それは単純に、科目上「ニレ科」と言われているものの、その中にはニレ当人(当木?)よりもはるかに著名で有用とされるエース、「ケヤキ」が存在するからです。
いや、もちろん古くは他の理由はあれど 、ケヤキの方が大径木に育ちはっきりとした力強い木目に時として特殊な杢の現れる魅力などが、ニレをはるかに上回っていたのでしょう。
ニレは建築や木材の世界ではいつの世も存在する影武者である「似た木材や同種の木材」として、薄い灰褐色の木肌をケヤキ色に塗装をしてケヤキとして販売されたり、無垢の一枚板はケヤキなれど、ケヤキでも単板の製品になるとはニレの単板を接着して「ケヤキ貼り」として出荷されるのは当たり前のこと。
高価なケヤキの代用品、または影武者として実は裏の舞台で活躍しているのがニレなのです。
この様に、多くは薄い単板として利用されていたために、木材としての利用が多くないことから、私が「ニレの木材」を探していた時に入手できなかった理由でもあります。
木材というのは、利用方法が異なればたとえ山に生えていようとも、必ずしも塊の材料となって市場に出てくるとは限らないのが利用の難しいところでもあります。

塗装をしてケヤキとして出荷されるものに「栓(セン)」という木材も存在し、正確にはこちらの方がよりケヤキに近い、というか塗装するとほとんどわからなくなってしまいますが、簡単なケヤキとニレ、栓の見分けは、「木肌の色と道管」です。

ケヤキとセンは、木口から材を見た時に道管という組織が年輪状に並んでいる「環孔材(かんこうざい)」と言われるグループの中でも、道管の配列が(ほぼ)一列であることが特徴です。
その為、板にした場合の木目が非常にはっきりとしていますし、木口の年輪状の道管の配列をみると、小さな道管の孔が2列〜3列に重なることなくほぼ1列に整列しているのが見て取れます。

ケヤキ道管


それがニレでは1列ではないので、木目も少し幅ができて伸びたような感じに見えます。
これが大きな点ですが、木肌の色としてはケヤキの赤身は顕著な橙色のような発色ですし、ニレも遠からずですが大半はくすんだ灰褐色に近くなり、センはタモやナラのような薄い灰色に近い外観になるのでわかると思います。

その他では、一昔前によく見られたものに「赤ダモ」という表記があります。
赤玉、ではありません。アカダモ・・・
これは何によく見られたかというと「階段材」です。
特に細い木材を接着して作られる集成材の階段材ではこのアカダモなる樹種が多くみられました。

赤ダモ



実はこのアカダモはニレのこと、なのです。
この「タモ」という言葉を引用しているのは、東北・信州地方ではニレのことをタモと称することがあったそうで、赤っぽいタモ、という事から来ているともいわれますが、これがまた木材・建築業界の分かりづらいところで、商品上の位置づけとしてはタモという樹種よりもリーズナブル乍も見た目は殆ど同じで材の硬さなども近しい、ということで、手の届きやすい「赤いタモ材」という意味あいで販売されていました。
この業界では「米松(べいまつ)」や先の「イヌ○○」のように、その樹種ではないものでも、似ているものを代用しているケースが多いので、私も初めはタモだと思っていましたが、実は探していたニレが身近で活躍していた驚きのケースです。

それぞれの樹種は、人が決めた価値によって差がうまれスポットライトの当たる「光の樹種」と重要ではあるが裏役に回ってしまう「影の樹種」に分けられてしまいがちですが、それは言うように人が決めたこと。
それならば、また同じように人がその価値をあげてやる工夫をしてやればいいだけのこと。

よし、ケヤキにも負けないニレの良さをアピールだ!!
と勢いづくものの、実際のところはやはりむつかしいのです。
ケヤキに優っていると言われる部分は、「柄」の材としては材面が粗く摩擦が生じることからケヤキよりも良材とされているそうですが、他の材としてのニレは比重平均0.63とやや重硬な木材でありながら、上記の単板としての需要は相当数あったそうですが、ケヤキよりも反りなどが多く(ケヤキもたいていですが・・・)材が柔らかで、表面の仕上がりもケヤキには劣る、材の保存性はよくなく挙句には古い書籍によると「ケヤキ・タモの劣等材」という表記があることで、表舞台には出てこなかったようです。
現在では乾燥や製材技術の進歩によって、利用の難しさから「木で無い」と形容された橅(ぶな)でさえ、さまざまな用途に活用されていますから、ニレも負けてはいられません。
他には、比較的大径木になるので「臼材」として利用されていたり、昔の北海道の防腐処理せずに使う2種枕木の材として使われていたといいます。
それに世界では仲間の樹種は活用されていますし、日本で人気のケヤキも輸出計画があったものの、日本で好まれる特有の橙色っぽい赤身の色合いが、ヨーロッパなどでは受け入れられなかったために、海外には出て行かなかったという経緯がありますから、少なくとも海の向こうではニレの方がポピュラーだということです。

それとは別の価値あるもの、というと神代木がありますね。

神代ニレ 1

これに限っては、魅力は無限大。
樹種の個性に神代という価値が加わり、稀少性や所有感という面を満たすには十分なアイテムであることは言うまでもありません。

神代ニレ 2

特別、ニレの良いところ、と宣伝するのは難しいと思われていると思いますが、よし悪しではなく、あくまでもその表情を活かせる可能性がある使い方をするかどうかの話。
もちろん、様々な杢が出ることもありますが、それ以外にケヤキではあまり見かけないようなこんな模様があったりすることがあるので、上手に活かさないともったいない。

 ニレ 2

こういった味を活かすことこそが、材としてのニレを活かす道で知名度を上げる方法の一つだと思います。
もちろん、無限に資金のある人は別ですが、無垢の木材でリーズナブルなものを・・・と求める人にも強い味方であることは言うまでもありません。
このニレの板も、ダイニングテーブルにとお客様の要望のあるものです。
ニレはコミュニケーションのシンボル。
このテーブルを囲んで会話が弾みよい人間関係が築けると、ニレにも明るいスポットライトが当たったということになります。
影武者ではなく、明るいコミュニケーションの使者。
それがニレの本当の姿・・・



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