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親も木材もあるうちに尊べ 地栂(じつが・じとが)という天然林の贈り物


さて、一通りベイツガのお話を通り越したところで、やっと本題に入りましょう。
日本の栂、地栂について。

地栂1


栂(つが)という樹種の名前を紹介する時に、信州の地理に詳しい方やスキーやスノーボードの経験のある方には「栂池ってありますでしょ?あの栂です。」と説明すれば、字体からの親近感は湧くのですが、どうしても材のイメージまではふくらませることができませんから、後は私の栂蘊蓄のオンパレードになってくるわけですが、それでもヒノキやスギ程の華やかな、また広範囲な使用例というものが伝わりにくいのも、栂を贔屓にしてやりたくなるところなのかもしれません。
(下は目が飛び出る値段の地栂原木。)

地栂


しかしながら地栂は、今から30年ほど前までは意外なところで皆さんの生活の中に使われていたことをご存知の方はいらっしゃらないでしょう。
子供も大人も、嫌いだという話をあまり聞くことの無い「かまぼこ」。
あのかまぼこには、底に板がついていますよね?!白っぽい木材の薄い板が使われているハズですね。
実は、その板が地栂であった時代があるのです。
現在では地栂のかまぼこ板はほぼ流通してはいないと思いますが、実は地栂はかまぼこ板に利用され続ける「モミ」と生息域が近く、「モミ・ツガ林」を形成するところもあり、更に材色は両者とも白色に近く栂も匂いが少ない(モミは乾燥させれば無臭と言われる)事から、以前はモミと共に相当な量がかまぼこ板として製材されていたそうです。
意外なもんです。
また、それと同じ時期にはできたてのパンを入れておく木の容器(箱状のもの)にも地栂の板が使われていたといいますから、木材の用途というのは建築に限らず幅広いものだということを改めて認識させられますね。

食べ物ついでに言いますと、地栂の保存耐久性は中庸といわれますが鼠害が無いというのが古くから知られています。
地栂の材面に見られるフロコソイドという白っぽい物質によって、ネズミにかじられないという特徴を持っているのです。
時々、材面に白っぽい斑の様に現れるのがそうです。
往年の名作「トムとジェリー」では孔のあいたチーズが描かれていましたが、もし地栂の箱にでも入れておけば、可愛いジェリーもタジタジだったことでしょう。

白色の材面でしっかりと仕上げた表面には光沢があり、材に脂分が少ない事が好まれ、目につく場所にも多く用いられていますが、その代表が床柱でしょうか。
それは大径木の地栂からとれる「四方柾」という「角材の四方全ての面が柾目」という、超贅沢で雅な材がとれることや、高樹齢の地栂の原木には、広葉樹顔負けの美しい杢が出る事があるからです。
特にその独特の杢は蟹杢(かにもく)と称され、時に高樹齢の松にもみられる「蟹の甲羅のような」木目です。
どうしてこんなに美しい模様が作り出せるのか?!と聞くのはヤボというものですが、それでもこの不思議な杢の連続は、木のファンならば眺めていて飽きないことは間違いありません。

地栂6


例え杢が無くても、緻密で堅く締まる材質は建築材料において「ヒノキに次ぐ良材」とも言われることから構造材にも利用され、弊社でも幾度もお伝えしている「栂普請の家」が、未だに現存しているのも納得なのです。
ただ、重硬な部類の針葉樹である地栂は、大工さんにとっては苦労も伴うようで、直接目に触れる部分に使う節の無いものとは違い、節ありの盤を構造材などにする場合は「大きくて点在する節」をどうやって加工に支障の無い位置で活かすか、ということや、木造りする場面での材質の堅さが針葉樹慣れした加工準備では難易に思わせる一面も持っています。

地栂2

その点がベイツガとの大きな違いの一つで、ベイツガは後述する晩材が狭い為木目もあまりはっきりとする傾向ではなく、比重も軽いので加工は用意ですが割れが出やすいのです。

古い文献には、割りやすく水湿に耐えることから「屋根材」に使用し、耐朽性の目安は30年〜40年ほどだという記述も残っています。
水湿に耐える、というのは少し疑問が残るところではありますが、常に湿潤な環境ではないということなのでしょう。
それに、材が「割易い」というのは、古くから木材を利用する上では非常に重要な要素のうちの一つで、製材機械の発達していない時代には木材は「割って使用していた」のですから、材を割ることができるものを重宝しさらに割ることができるということは小さな材をつくることができるということで、屋根の板として使われてきたのかもしれません。

余談ですが、社寺建築にケヤキが多く登場するようになったのは、鉋や鋸などの木材を切ったり削ったりできる道具の発達があってからだと言われています。
それまでは、もっぱら割ることで木材として利用してきた木材の用途と樹種が大きく転換した時だとも言われます。

更に余談ですが、あの有名な「屋久杉」も屋根板に大量に利用されていました。
材質が柔らかくて割って運ぶことのできる(というか、屋久の山中からはそうでなければ運び出せなかった)屋久杉の一大用途だったそうですから、もしかすると九州方面の古い家屋の屋根板には、未だに屋久杉が残っているかもしれません!解体注意!!ですよね。
また、屋久杉の場合は通常のスギとは異なり非常に多くの油分を含んでいることも利点で、耐朽性が低いとされるスギが屋根に使われるという大きな理由の一つになっています。
あかん、余談ばかりで本題が見えなくなりそうですが、もう一つだけ!!

地栂と屋久杉は意外に関係が深くて、屋久島には高樹齢の大径木の栂の自生も見られます。いわゆる「屋久栂」です。

屋久栂

もちろん高温多雨な地域柄、油分の多い屋久杉の様に数千年もの樹齢を数えるものは無いので、屋久杉の例に則るなら「小栂」なのかもしれませんが、下に書いているように数千年生きている栂というのはありませんので、この場合は屋久栂と称して稀に幅広板や盤が材として出てくる時があります。
屋久杉と同じく、年輪も細かく美しい木目であることが屋久栂の特徴です。
ただ、そんな屋久島ですら桁はずれな地栂の巨樹というものは見当たりません。
用材として伐採されてしまったのかどうか・・・
地栂の巨樹としては、兵庫県に幹回り5mのものが存在しますが、それ以外は5mというものは見当たりません。
もしかすると、地栂は屋久杉の様に特殊な寿命を授かるものではなく、きっちりと自分の生涯を謳歌して朽ちていく、そんな樹種なのかもしれません。
これは、貴重な屋久栂の幅広板
約800位の幅があります。腐れなども見られますが、宝物です。

地栂5

さて、地栂ですが杢の他に私が一押ししたいのが「晩材と早材のコントラスト」。
晩材と早材というのは、木材の成長サイクルの違いによってできる木質部分(細胞)の違いのこと。
この違いが大きいほど木目をはっきりと感じる事ができます。
少し前のピュアラーチ(TENKARA・カラマツ)幅広無垢フローリングお宅の完成の記事でも触れていますが、ヒノキやスギとは違い、年輪を形成する木目の色の濃い部分と薄い部分の色差がはっきりとしており、その為に大人しいと感じる柾目木取りでも、経年による色合いの変化の後もむしろはっきりと木目が浮かぶ立つように感じられることから、ピュアラーチとともに経年美を楽しむことのできる樹種だと言えるのです。
また、白色の材面は仕上げた当初はあっさりとしている様に感じられるかもしれませんが、早い段階から経年による色合いの変化が現れ、晩材と早材の差がよりくっきりと見られるようになるので、当初の清々しさと経年の艶のある美しさが楽しめるところは、木材の真骨頂を具現化している最たるものです。

今回は誠に脱線が多いですが、細胞といえば地栂の細胞繊維は他の樹種に比べて長い為に、製紙材料として使われることが多いといいます。
もちろん、他の樹種に比べて蓄積量が明らかに少ないので安定供給できないこともあり、現実的に「地栂製の紙」が流通しているわけではないと思われるのですが、細胞レベルで見る特徴というのも、木材の面白い所の一つです。

そんな特徴満載の地栂ですが、優秀であるけども木造りに気合いが必要であることとベイツガとの混同で、大工さんにはあまり評判の良くない場合が多いものの、お施主様受けは悪くはありませんよ。
実際、栂普請の家地栂の無垢階段地栂の天井板は大変喜んで頂いています。

さて、脱線ばかりの地栂ストーリーもまっすぐなレールに乗せて終わりたいと思います。
その蓄積の少なさと小径木の利用という例が無い為に、木理通直な天然地栂材は、ヴァイオリンの甲板としても利用されていました。
音の伝導性という点でも通直な木理は有効に作用しますから、おそらくスゥーっと伸びる良い音を奏でることでしょう。

日本の天然林から産出できる有用材は減少しています。
木曽桧も、原木は産出していますが圧倒的に人工林からのものが多くを占めています。
そんな状況ですから、地栂も木曽桧も私が紹介できる間に「価値を知って、これらの材を喜んで頂ける方」に使って頂きたいのです。
節があるから価値が低いとか、他産地の他樹種の方が有名だと言った理由でこれらを選ばれない場合もあります。
しかしながら、これからどんどん目にする機会の少なくなるであろう貴重な材を無駄にすること無く使いたい。
だから、好きになったから地栂で!木曽桧で!と言っていただけるお客様に向けて発信していくつもりです。

栂の木偏に母、と書く由来は地栂フローリングの記事にてお話しましたが、双方「あるうちに尊べ」です。
いつまでもあると思っていてはいけないところは、まさしくお母さんと同じ。
天然林から産出される貴重な地栂、あるうちにご紹介します。
聞いてはこないけれども、聴いてほしくなる地栂のお話でした。


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地栂3




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