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割れる木材は強くなる!


あぁ、先週は色々な予定が多重に訪れる超無理なスケジュールでした。
想像通り、パンパンな予定はこなせどもこなせどもすべてをこなすことができず、少しづつ先送りにして何とか乗り切った(それでもほぼ無睡眠が2日・・・つらい。)のですが、先送りの影響が大きいのがこの記事となってしまいました。
まったく触ることができずに来てしまいましたので、更新がすっかりと遅くなってしまいました。

さて、それでは前回からの続き。お待たせしました。

割れ

木材にとっては切っても切れない関係にあるものですが、美観的にも印象的にもあまり歓迎されるものではありません。
人間の頭の中では、「割れ=強度の低下」というような図式が作られることは簡単で、私もはっきりと知るまでは「割れてても大丈夫なの?!」と思っていたものです。

周りの大工さんは割れて強くなるんや、といいますが何の根拠も無しにそんな事言われても、今一つピンときません。
そこで、すこし言葉は難しくなりますが、木材が割れる事によってどの様な変化が起こるかを、少しづつ追っていきたいと思いますので、少々お付き合いください。

そもそも木材は、伐採された時にはそれ自身の中に多量の水分を含んでいることは想像できると思います。成長する為に必要な水分を吸い上げているわけですが、いざ木材として利用しようとするとこの水分がとても大きな壁として立ちはだかることとなります。
伐採されて以降の木材は次第に材の乾燥が進み、表面・内面共に水分が少なくなってくるわけですが、その水分が少なくなっていく過程は単調ではなく、途中大きく変化するところが出てきます。

木材に含まれる水分には、細胞壁と言われるいわば「ストロー状の細胞の柱」の内部に吸着している「結合水」と、細胞の内孔などに自由に動くことのできる状態で存在する「自由水」があります。
(下の図参照。円柱が木材の細胞だと思ってください。次男画)

一番左が水分を多く含んだ、乾燥されていない状態。濃い青色が自由水、薄い青色が結合水を表しています。
そこから乾燥が進むにつれて、徐々に水分が抜けていく様を表しています。

木材の含水細胞イメージ図


先に出た、水分が少なくなる過程が変化する点というのが、この自由水が全て出ていってしまった時で、その点を「繊維飽和点」(Fiber Saturation Point)といい、樹種に関係なく含水率(木材の中の水分量と考えましょう)が(25〜)30%くらいのところが丁度その点に当たります。
木材関係者や、大切に乾燥させている木材をお持ちだった方はわかるかもしれませんが、水分の多い時は木材は意外と割れてきません。
どころか、少しづつ乾燥していくのがわかるような気がするので、期待に胸が膨らむのですがいざ、乾いてきたと実感するようになるころには急激に割れが始まったりする経験をお持ちではないでしょうか?!

含水率30%を切る頃というのは、丁度そんな時です。
「おぉー、割れずによくがんばっとるなぁ・・・」といいたくなるんですが、この時が一番気をつけないといけない時。
そして、信じがたいことですが、割れ始めると同時期に木材の強度特性は大きく変化し始めます。
自由水という水分が存在している間は、細胞壁の内部の状態は変化しませんが、自由水の次に結合水が減少し始めると、次第に木材の強度は上昇を始めるのです。

結合水というのは、木材組織の大きな構成要素であるセルロース分子に引き寄せられるように存在しているために、自由水のように簡単には動かないのですが、それが動き出すのが丁度この点なのです。

ここからは、含水率が下がれば下がるほど強度は増します。(ただし例外有り。)

この現象は、木材の細胞内の結合水をはじめとする水分が減っていくにつれて、水素結合がより強くなり外部からの力に対して変形しにくくなるためです。
とはいえ、木造住宅の構造材や細かい細工部分などの接合部が割れている場合や、割れの亀裂部分を引き裂くように働く力には当然抵抗できませんので、「強くなる」の言葉の意味に注意してくださいね。
また、一般的に想像するような「水分がなくなるとスカスカになる」ような印象は、適度に乾燥した状態の木材には当てはまらず、水分が少ない方がより強度があるといえますが、さらに水分を無くしていったり、細胞壁を破壊してしまうほどに急激な乾燥スケジュールなどを行うと、もちろん変形の力に耐える以外の外力に抵抗しづらくなりますので、これも誤解のない様にしないといけません。

それに、乾燥することによって木材の強度があがる「だけ」であれば、材木屋はどんどん乾燥させるでしょうし、そのための土地をたくさん用意するはずですが、そうは問屋がおろしません。
そうです、ここで出てくるのが「割れ」なのです。

話をぎゅっと凝縮すると、強度が高くなるにつれて割れも出やすくなる。そんな話に聞こえますね。
これが、昔から言われてきた「木は割れて強くなる」と言われている部分なのだと思います。
または、締まってきて強くなるともいわれます。
パシパシやピシピシと言ってはじけるような木材が割れる音は、何も知らなければ「家が割れていっている!!」と驚かれることもありますが、実は「繊維飽和点」に達して木材が「強度を増している音」だったんです。

木材の割れ 3


もちろん、今日では人工乾燥材がほとんどですので、屋根の材料以外ではそんな割れの音を聞く機会も少なくなりましたが、一昔前は必ず聞かれたものでした。

つまりは、木材の割れを敬遠するということは、引き締まって強くなっていく木材を敬遠するのと同じこと。
日頃目にする部分が大きく割れてくると気になってしまいますが、構造材などが少しづつ割れるというのは、貫通割れなどの一部を除き気にしなくても良い場合が多いという事です。

因みに、先日タイムリーに得た情報によれば、この木材乾燥中の水分移動による割れを防ぐ「割れ止材」に応用されているのが、水分子がいなくなることによってできた隙間(例えです)のために木材の細胞が収縮し、割れてしまうところに薬剤を浸透させて、水分子の代わりに木材の細胞とお手てをつないで割れを防いでくれるという優れものもあるのだとか・・・
さっそく使ってみたくなりました。

話は戻って割れによる強度変化ですが、割れと乾燥についての話はとても奥が深い話ですし、乾燥と切り離して割れを考えても、木材の伸縮の異方性という材面による伸縮率の違いを説明しなければいけません。
それにいまだに乾燥方法なども研究しつづけられていますから、一つのコラムで伝えきれるようなものではありませんので、最後に心配の種だけとって締めくくりましょう。

先にも書いた通り、木材の割れは貫通割れなどのような大きな割れや、割れ部分を引き裂くような力がかからない限り、表面割れ程度では木材の強度を表す「曲げ強度」や「圧縮強度」の低下は殆どないと言われます。
また、割れの深さが材厚の50%以内のものは、材の曲げ剛性の低下も5%程度の低下でとどまるとも言われています。

割れる物は弱い、のではなく割れるからこそ強くなるという木材。
内部割れや、精油まで絞り出してしまうような無理な乾燥をしなければ、割れている材も安心して使えるということです。
昔の人は、こういった木材内部の作用を知ってか知らずか、きちんと使いこなしているのが普通だったんでしょうね。
そんな中で、知識を交えて木材について自信をもって語れる大工さんや材木屋が少なくなり、いつのまにやら「割れる=弱い」というイメージが定着してしまったのかもしれません。

ただ安易に大丈夫、ではなくて乾燥途中で起こる木材と水分の引き起こす作用を知ってもらうことで、より木材が安心して使ってもらえて、木材の割れで裁判、なんてことにならないことを祈ります。

木材の割れ 1



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