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原始の森 春日山のナギ伐採


先の新聞記事に「春日山原始林 1200年ぶり伐採へ」という記事が大きく出ていました。

春日山原始林とは奈良県において、有名な春日大社を抱える広葉樹を中心とした(とされる)、都市近郊に残る珍しい原始林として1955年に国の特別天然記念物に指定され、1998年には周辺の6社寺とともに世界遺産の「古都奈良の文化財」に登録された名所です。

大社 2

その世界遺産にも登録されている森を伐採する、いったいどういうことなのか?!
世界遺産であるという以前に、基本的には平安時代の841年から勅命により伐採が禁じられている春日大社の神域。
そんな場所の木を伐採するというのは異例なことです。伐採だけではなく、人の手が入ること自体も、原始林にとっては良くありません
よく言われるのは、一度人の手が入った(造林や樹種転換他の整備など)森はずっと人が手を入れていかないといけない、ということです。
もちろん、とても壊滅的な森になる、というような悲観的な意味ではないですが、意図的に整備された森を維持するには、人が関わり続けないといけないということです。

天然林と原始林(原生林)というのは意味が全く異なります。
天然林というのは、植林などではなく実生(自然に種がおち芽が出る)の山を指している言葉だと解釈すると、人が枝打ちや伐採整備の為に介入していても、天然は天然。
かの有名な木曽桧でも、天然林=自然のままと思われがちですが、樹齢数百年の実生木の他に、人の手によって植えられたものもあり、「自然のまま」というわけではありません。

一方の原始林(原生林)というのは、基本的に人が入っていない原始の姿の森を指していると解釈できますから、その森に入って木を伐るということが、現在だけではなく将来に与える影響がどうなのか?そんな事も考えますが、どうも入らざるを得ない状況の様です。

そうするともしかして、稀少な原始林から貴重な広葉樹丸太がわんさかでてくるのか?!?、と不謹慎な推測をしてしまいましたが、今回伐採するのは広葉樹ではなく針葉樹の「ナギ」という樹木だそうです。

事の流れは簡単で、奈良公園や春日大社周辺に行かれたことのある方はお分かりだと思いますが、あちらこちらにいるシカが広葉樹を食べてしまうから反対にナギという樹種が増えた、そのために増えたナギを伐採する(正確には密集地の高さ数十センチから2m程度を伐採)ということです。
シカも終戦直後は約80頭ほどだったのが、今では1100頭が生息しているそうで、餌ももらえる環境ではこれからも増え続けるのかもしれません。

なんかこの流れ、先日の「シカが先か、人が先か」の記事ににていますよね。

今回は周辺で守られているシカが増え、その代わりに大切な原始林の様相が変化してきている、というなんとも皮肉な出来事です。
春日大社原始林近辺のシカは「神様の御使い」ですから守られた存在ですし、原始林もまた人が入らずにそのままの状態で保たれた場所です。
どちらも守っていくべきもののはずなのに、そのバランスが崩れてしまっていたのでしょう。

8世紀にナギが春日大社に献木された後、原始林に広がったという説があるそうで、県などによると樹齢は数百年のものも存在し高さ20mまで生育しているということ。(文献によってはもっと昔の枯れ株もあるとか?!)
そういえば、春日山の巨樹ガイドには、幹回り3mを超えるナギがいくつか記載されています。
それ以外にも群落のような場所があるということなので、百年、二百年以上の月日をかけて広がっていったのでしょう。

ナギについての詳しくは長くなるので次回に持ち越しをさせていただくとして、ナギが原始林で問題になるほどに生育する理由は、「ナギラクトン」という
動物の嫌う成分を分泌するため、他の広葉樹の様にシカの食害を受けないからだそうです。

原始林なんだから、ナギが増えるのもそのままにしておく方が自然でいいのではないか?!、そう思うところもあるかもしれませんが、このままいくと数百年後には原始林は針葉樹の森になってしまう可能性もあるといいます。


もともと樹木には日陰でも成長しやすい陰樹や日向を好む陽樹、荒れ地を好むものや密生地でも育つことのできるものなどがあります。
以前とりあげたセコイアなどは、山火事の後に初めて芽吹くと言われます。巨人に育つために周囲の環境が整うまで待っているとしか思えません。
木々を含む自然そのものが、自らの形を変えていく術を知っているのでしょう。
そういった、一見自然が壊れ後退し、まったく違ったものになってしまうと目に映ることも、地球の営みの中では本体の姿なのかもしれません。

土の大地をアスファルトで固め、山を切り開き、海を埋め立てて生活する人間も生きていく上での営みに変わりはないのですが、その反面で環境的に今ある自然を維持しようとしていくのも人間が出来ること。
シカの食害も生きる上でのことで、わざわざ自然破壊しているシカなどいないはず。
みんながそうなんですが、やはり丁度良い状態でバランスをとっていくというのはとても難しいことですね。

自然保護として人が入るのか、それとも自然をそのまま見届けるのか?!
もしかしたら、これは自然界の自己淘汰なのか?!神様の使いであるシカが広葉樹を減らし、現状の環境変化と何百年先の未来をみて森林の更新作業をしているのではないか?!!
そんな神秘的な妄想すらも浮かんできますが、シカ以外にもナラ枯れの被害も深刻化する恐れのあると言われる春日山原始林。
最善の結論というものを探っていくしかないのでしょうが、どう動くにせよ今後の様相に注目です。


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