空を見上げて
トップページ » ひばあてあすなろ

ひばあてあすなろ


表題を見ると、なんのことやら?どこで区切って読むのやら?!といった謎かけの様ですが、当然木のお話。

木材の世界は泥沼の様に・・・いや、底なし沼のように・・・いやいや基、深い深い海のように奥が深く、知れば知るほど魅力的なのは言うまでもありませんが、いろいろと知ってくると、各樹種の違いや細かな特徴、外観の違いや仲間の木同士の差が知りたくなってくるもの。
そして木材も生き物ですから、均一に比べる事ができないのである程度の経験や五感で見分ける、みたいな部分があって、そこがまた楽しいところでもありますが、一般の方にするとややこしいところでもあるので、たまに整理してやる必要があります。

その情報を届けるのも、私たち町の材木屋の役割の一つです。

そこで表題のお話ですが、「ひばあてあすなろ」というのは、3つの木の名前が入っているものです。どこでくぎるか・・・
一つは「ひば」、そして「あて」、3つ目は「あすなろ」です。

すべてヒノキ科アスナロ属の木ですが、これがはてさて、なかなか面白い?!ものです。
それでは、順におっていきましょう。

初めに「ひば」。
これは、弊社の木製名刺ケースの素材としてやフローリング厚板の在庫を紹介したりしていますし、私の自宅の土台も実はひばを使っている位に、親しみを感じる樹種です。

ひば

ひばといえば、連想されるのはやはり「天然青森ひばの美林」でしょうね。
もちろん、青森県の木が青森ひばです。
青森県の県名の由来は、冬なおあおあおと茂ったヒバの山からきている、といいますから、そりゃ県の木にもなるというものです。
木曽桧、秋田杉と並び称される日本三大美林のひとつに数えられるそれは、日本の木材の財産と言えるものでしょう。

産地周辺では建築物にも多く用いられていて、桧が入手しづらいところでは社寺仏閣にも使われ、平泉の中尊寺がひば造りで有名です。次にでてくる「あて」様に、塗り物も有名で能代春慶塗があります。

青森ひば、と地名が付くほどの特産である「ひば・檜葉(当て字のようです)」。
正確にはヒノキアスナロ。その樹種の80%が青森県にあると言われています。
青森県では単に「ヒノキ」ともいわれているそうですから、私たちからするとややこしいものですが、他に関東では「ひば」といえば、「さわら」という木を指すこともあるという、わけわからん世界です。
さらに追い打ちをかけるように、園芸品種になると「ヒヨクヒバ(イトヒバ)」、「シノブヒバ」なるものはサワラであって、「ニオイヒバ」は濃い茶色の肌が特徴の木材であるネズコ(米杉・レッドシダーの仲間)であるそうです。

因みに蛇足ながら「米ヒバ」といわれ流通している木材は、色見などが似通っていて、こちらも強烈な香りをもっています(この香りも好きですが・・・)が、これもヒノキ属でひばとはまた異なります。
米杉(日本のネズコの仲間)や米松(日本のトガサワラの仲間)と同じように、日本人が親しんでいる木材の名称にならって似た樹種を読んでいる通称です。
しかしながら、大径木が得られる事で木目はとても美しいものですし、耐久性も問題なく高いので、有用な樹種であることは言うまでもありません。

後にでてくる「あすなろ」との外観上の違いは、枝葉がそれよりも少し小さく、球果がほぼ球形であることと、球果の鱗片の先端がとがり気味でも細く突出しない、ということと言われていますが、そこまで見られるのはやはり学術的専門家くらいでしょうかね。
材としてのひばの特徴は少し黄色がかった木肌とやはりその特有の香りでしょう。
私の知る建築現場では、白木(しらき)という言葉がありますが、主に桧などの白っぽい針葉樹を広く指す言葉の様に使われたりして、和室の敷居や鴨居などの部材の材種を伝える時に使います。広義なので、スプルースなども含めて無垢の針葉樹を指しているという場合もあるのですが、青森ひばは、どちらかというと白木というには、白くはありません。
もちろん、桧も心材である赤身は全く白くないのですが、ヒバの芯材の色合いは本当に独特です。
また、その特有の香りは「好みの分かれる」ところで、こればかりは香りをかいでみてもらわないと、なんとも言いづらいくらい、苦手な方もいらっしゃいます。
私が好きな香りだというと、大抵は驚かれますから普通は嫌われるものなのかな・・・少し残念ですが・・・

しかしながら、それだけの芳香があるということは、様々な精油成分を含んでいる証拠。
その証拠に、住宅の土台にするには最高等級にランクされていますし、シロアリに対する抵抗性も桧よりも高いものがあります。
実はとってもとっても優秀な樹種であるひば。

その精油成分の秘密はヒノキチオール。
台湾桧の講でも触れましたが、元はタイワンヒノキチオールのタイワンがとれた形でヒノキチオールと称されている、桧には微量しか含まれない成分であり、難しくいうとβツヤプリシンという物質。(同様の構造を持つβドラブリンも含む。)
そのヒノキチオールを含む精油「青森ひば油」は100kgのひば材から1kgしか取れない、つまり1%しか出てこない貴重なものですが、さらにヒノキチオール系成分はその中に2%含有されています。

因みに、理科の弱い私には理解できませんが、そのヒノキチオールは「七員環」という特異な化学構造を持っている物だそうで、1940年に野副鉄男さんが発表されたそうですね。
ヒノキチオールの実力はその発表と同じ位に素晴らしく、シロアリやゴキブリ(幼虫)への殺虫性やダニの忌避性、そして抗菌性を持ちながら耐性菌が現れにくいという、スーパーな性質を持っています。
こうやって書いている私も、この性質にとても惹かれて「自宅の土台は必ずひばに・・・」と、土台という建ててしまうと見えない部分に投資し、目に触れる内装にこだわらなかったことを廻りからは「アホな奴」と見られていたようですが、少なくとも、自宅には外から侵入する以外のゴキブリは見かけていませんから、やはり効果はあるのでしょう。
半分自己満足ですが・・・
それに一説には、水虫予防の為にひばの削りかすを靴に詰めていた、という話もある位に抗菌性がある、らしい・・・

そして木材を見たり香りをかいだりするとリラックスできるという事が言われますが、青森ひばにおいては実験で検証もされており、青森ひばの内装材を適度に使用した室内において安静にすることで、副交感神経の活動が高まり、血圧や唾液アミラーゼ活性が低下しリラックス状態になるという結果が示されています。
言い伝えや感覚ではなく、一般的被験者のデータですので実証されていると言ってもいいでしょう。


ただし、天然のものだから万能だ、と思ってはいけません。
ヒノキでもそうですが、いくら自然由来とはいえアレルギーは存在します。
新鮮な食材であってもアレルギー反応がある様に、自然の産物でもご自身の体調に合うか否かは香りをかいでみる、精油に少し触れてみる、一晩同じ部屋において過ごすなどの配慮が必要なこともありますよ。


また、青森ひばは200年生を超えているものが多く、比較的年輪の詰まったものがありますから、木目もとても美しいですし、柾目に挽くと柔らかな印象の板が得られます。
それでも、そんな優秀な樹種であるひばも、私の活動地域である関西ではとても知名度が低いです。
なぜでしょう?!

一つは地理的な問題。やはり昔から桧普請が多かったから?!
そして現実的なところでは、先の特有の香りと材の性が合わないからではないかと思います。
青森ひばは、唐松と争う位に個性的な旋回木です。
つまりは、木材にしても「ねじれてしまう」のです。

実際、私の自宅の土台も、大工さんが加工した後から見る見るうちにプロペラ状にねじれ始め、現場に運び込んでもまだ削る作業をしていた記憶があります。
もちろん、それは乾燥材ではなかったからではあるのですが、それでもなかなか一筋縄ではいかない一面もありますので、桧が供給されるなかでエキストラを支払ってまでは流通しなかったのだろうと想像しています。

木目も綺麗で水湿にもすこぶる耐久性のあるひば。木の浴槽なんかには、高野槙(コウヤマキ)や桧もいいですが、私はひばが一番好きですね。
上手に使って、もっとお客様に良さを伝えたいものです。


2つ目は「あて」。

木材業者で「アテ」ときくと、あんまりいい気はしないもんです。
現在では少なくなりましたが、和室や無垢の木材の加工が大工さん作業だったころは、「これ、えらいアテやんけぇ〜。なんとかしてぇーな。」と言われたもんです。
なんとかして、は交換という意味合いの場合が殆ど。
つまりはこの場合のアテというのは、木材が成長する時にできる「クセ」の部分である「陽疾(あて・コンプレッションウッド)」を指しています。
この部分を含む材料は、加工しにくかったりクセが強いので、取り付け後の歪みや伸縮が大きく、木材として使いづらい場面が多いのです。
それで先の、なんとかしてぇーなぁ、です。

アテ材全てがダメなわけではなくて、それを使える場所を探していってやらないといけないのが材木屋なのですが、それをするには大工さんとのコミュニケーションが必要です。
こういうところにもっていこう、ここに工夫して使おうというお互いの意思が無いと活用できません。
現在の様に、一般住宅における大工さんの手加工が少なくなってくると、そうやってアテ木を活用する話をする機会もめっきりなくなりました。
昔はそういったやり取りも、材木屋の醍醐味の一つだったような気がするのですが・・・そうやって、木の事を少しづつ学んでいったものですよ。

ですので、「あて」ときいて、この「アテ」と混同されないようにしないといけません。いや、混同するのは古い材木屋くらいかな・・・

樹種としての「あて」というのは主に、石川県の木にもなっている「能登ひば」を指して用いられる場合が多いです。

あて

あての由来については、今でも本当に信じたくなる伝承があります。

あては昔に青森ひばの苗を、津軽藩の御法度を破りもちかえって植えたものが地場産業隆盛という大当たりとなった、「当たり」に由来する、と言われています。
そして、青森ひばの苗を持ちかえったものの造林種だから、青森ひばと同種と言われています。
しかしながら、あてという地方名は古くから近畿北部や北陸で使われていた言葉だそうで、有史以前の地層から同種の花粉が見つかったり、群落の発見があることからも青森ひばとは全く同じというわけではなく、遺伝子も異なっているそうです。
個人的には、先のロマンあふれる伝承を信じたい気持ちが強いのですが、明確には後者のようです。

さて、その縁起のいい「大当たり」の伝承をもつ「あて」で有名なのは輪島塗。
その塗りの素地になっているのが「あて」です。
「あて」は、耐陰性の強さの順および、成長の遅い順に「かなあて」、「まあて」、「くさあて」という品種があると聞きます。
聞いた当初は、材の硬さや加工性の違いで言い分けられているだけかと思ったのですが、きっちりとした定義があるのです。
その中でも、輪島塗などの漆器の原料に適しているのは「まあて」だそうです。
漆器だけではなく、木材にした場合にも若干の違いが現れるようですが、私もその違いまでは正確には把握できていません。

木材としての大きな特徴は、青森ひばが「節あり」の材木を造りにくい事に対して、能登アテは節ありの材を生産することができるのが大きな違いです。
青森ひばは大径木や、それにともなう大きな節の入るものが多くありますが、その殆どは木材に製材すると大きく欠けたり割れてしまったり、フローリングなどの板にすると大きな穴になってしまったりするので、土台などの角材以外は基本節なしになるのですが、能登アテの場合は無垢フローリング羽目板などの薄い板材も節ありで作ることが出来ます。

能登アテ(ひば)生き節幅広無垢一枚物フローリング 1


ですので、ひばの特徴を活かしながら節の風合いを楽しみたい方には、能登アテはピッタリの材になるのです。
湿気のこもりやすい洗面所の壁や、爽やかに保ちたい御手洗いの壁などのアクセントに丁度いい雰囲気を作ることが出来るでしょう。
持ち前の黄色みのある色合いと独特な香りは、杉やレッドパインではだすことのできない演出です。

そして最後に「あすなろ」です。
最後に持ってきた理由は、木材利用の上ではほとんどが「ひば」で流通しているため、先にひばを、そして移入されたというロマンを持って「あて」に話を写したかった親心(?!)で、実は、それぞれの基本形はこの「あすなろ」と言われます。

あすなろ ヒノキ科アスナロ属。本州西部から九州にかけて分布の植物。ウラスギのように、伏状更新をする。
漢字では翌檜(当て字のようです。下記参照)。中国表記を羅漢柏、英名をhiba arborvitae 学名をthujopsis dolabrata といいます。
thujopsis はネズコ属 thuja に似た、dolabrata は斧の様な=ヒノキ科最大の鱗片葉、の意味からきています。
そしてあすなろは南方系の木で、これの北方系の変種が「ひのきあすなろ=ひば」と定義されています。学名をthujopsis dolabrata var.hondai
つまりは、ひばも、あても、あすなろも、定義上は元の品種と変種でまとめられてしまいます。
なぁーんや、ここまでひっぱっておいて全然おもしろくないやん、と言わんといてください。
そうやってくくるのは学術上。

それ以上に奥が深いのが実際の木材。お話はこれから。
あすなろは別名を「あすひ」。
漢字表記でもわかる様に「翌檜=翌日は檜」の字のとおり、明日になれば材質・名声共に素晴らしい桧になる、という意味で「明日は桧になる=あすなろ」や「明日は桧=あすひ」と呼ばれている。
そう、私も昔の弊社の番頭さんにそう教わりました。
へぇ〜、むっちゃロマンチック!!と思ったもんです。
かの有名な枕草子にも記されるその説ですが、実は俗説らしいのです!!

実際のところは、「厚葉檜・あつばひのき」という名に尾ひれがついた形で流布された説だそうで、実際の葉も桧より厚いものだから、こちらの現実的な説が有力な様です。
「あす」は厚葉や悪し、陽疾を、「なろ」はサワラという木の地方名を表すというこという記述もあります。
私はやっぱり、真実ではなくてもそういった逸話の残っているほうが断然好きですね。
植物も生き物です。明日は桧になったるで!!くらいの夢がなくちゃ、ね!

ここでまた話がややこしいのは、たびたび出てくる「サワラ」。
これもいつかまとめたいですが、これはひばとは全く似ておらず、どちらかというと桧に酷似しています。
みんなヒノキ科ですが、それぞれ大きな違いを持っています。
見た目にはわからなくても、今回の各種の様に個性があって奥が深いです。
だからこそ、魅力的なんですね。
因みに葉も似ているヒノキ科の中での見分け方は、葉の裏の気孔線という白色の模様がヒノキではYの字型、サワラはX型、あすなろは広がっているという点で見分けがつきます。
とくにあすなろは「まるでスパイダーマンだらけ!」みたいな面白い形です。

あすなろの葉 1


一度探してくださいね。

因みに、前記の「明日は桧になろう」の悲しい?!説に人間の性を重ね合わせた作品として世に出ている「あすなろ物語」の筆者井上靖氏の生家の伊豆では、ラカンマキ・イヌマキの地方名がアスナロと言うらしい。
どっからきたのやら・・・
にしても、明日は桧・・・の行をどうとらえるかはその人次第ですね。
本の紹介には「ついに桧になれない、あすなろの悲しい性を・・・」とありますが、ひばは桧になる必要などありません。
既に優れているんだから。
なんてったって、日本一ヒノキチオールを含んでいるのは「ひば」なんですから。
それだけですごいじゃないですか。
僕は、明日は桧、と頑張っているうちに特有の能力を身につけたスーパーマンのような、そんな存在に思えてなりません。

アスナロ系に通じて言えることは暗い林内でも成長できる材であるということ。
太陽を燦々と受けないと成長できないものとは違い、少々暗くても生存競争に残っていけるその強さは、明日は桧になろう、どころか桧よりも生存競争に強いという特徴になって表れている様にも思えてなりません。
まぁ、私の想像ですが・・・

最後に学術的ではないですが、材木屋として耳にしたあすなろのお話で締めくくりたいと思います。
私がまだ杉と桧の判別がやっとの頃、研修で訪れた会館の一本の標本木をみたベテランさんが、「これ、あすなろやな。」と言っておられた。
私はなんのこっちゃ分からんかったのですが、幸い2人連れだったベテランさんが解説。
こいつ皮は桧やけど中は杉やろ、桧になりきれてへんやっちゃ。あすなろやで。
と。

先に書いた、明日は桧その物です。
それ以来、そんな丸太には出会っていませんので検証はできませんが、きっとそのベテランさんも、あすなろの伝承説をそのままあてはめた材木屋さんだったのかもしれません。
いや、もしかすると関西ローカルで、あすなろの分類が存在するのかも・・・・
その辺検証できる先輩募集中!!です。
全く利益の発生しない木材談義、しませんか(笑)。



トラックバックURL
コメントを書く




情報を記憶: 評価:  顔   星