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モミではなく、栃(とち)の木はのこった


昨日朝、いつもどおり新聞にさらっと目を通していると、大きな記事で「樹齢数百年・・・」という見出しが目に付き、思わず他の記事を後回しにしてその部分を注視しました。

ご存知の方はあるのだろうか、少なくとも恥ずかしながら私は知らなかったのですが、それは、滋賀県高島市というところの安曇(あど)川流域に、トチの木の巨木群が自生しているらしく、その巨木群の伐採の中止を求めた訴訟の行方を伝えたものでした。

森をまもる 2

記事によると地権者6人が所有していたその巨木群に、「樹齢200年を超えると腐食したり、実をつけなくなったりする」と「業者」から説明され、2007年から2010年の間に計約110本を、1本当たり5~10万円で売却されたそう。
その後60本が伐採されたところ、森林の保全などの活動をされる「日本熊森協会」が地元の住民の方たちと保護運動を開始し、売却した地権者の方も含め、自然保護上の価値の説明がなかったとして売買契約の無効を主張されるなどの動きをとられ、トチの木の所有権を主張する「業者」との訴訟になっていたということ。

その後伐採されずに残っている48本を、協会が買い取ることで合意し寄付を募り買取に必要な額が集まったそうです。
今後は保全に向けた取り組みが協議されていく予定とのこと。

トチの木は、直径1m以上にもなる広葉樹。
日本に1種自生し、平坦なところや沢沿いを好む性質から保水力のある木ということで、今回の伐採中止の働きかけの一因にもなっていたようです。
皆さんが知らなくとも、森林公園や植物園などで驚くほど大きな落ち葉を見たことがあるかもしれません。
たぶん、それはトチの葉です。
また、それとともに「栗」を見つけることでしょう。
誰もが栗だと思うその実、大きな葉のかたわらで見かける実はじつは栗ではありません。
トチの実なのです。
つぶさに観察する方や、違いをご存知のかた以外は誰もが栗だと思ってしまうその実は、縄文の古くから食用として利用され、化石も発見されていると記憶しています。

パリの街路樹として有名なヨーロッパの「marronnier マロニエ=セイヨウトチノキ」や英名 horse chestnut のどちらも語源は栗からきています。

また、トチの材は一枚板のテーブルや、和室の床の間の幅広材料、その他お盆や様々な幅広材が必要な用途に用いられ、そのサイズだけではなく、美しい縮み杢は、見る人の心をうっとりとさせる魅力にあふれた木材になります。

いや、今回に限っては材の話はしないでおきましょう。

記事の中にある「業者」が何者なのかはわかりませんが、トチの太い丸太の木材価値を知った人間であることは勿論ですが、貴重な巨樹群を買い取って伐採するというのは、同じ木材で商売をさせてもらっている私にはつらいところがあります。
私ももちろん、伐採した木を木材にしたものを流通させているわけですから、あまりに傾倒した意見で物言いできませんが、私のつづる巨樹の記事をご覧頂いていれば、今回の「業者」とは異なることはお分かりいただけると思います。
買取の理由付けにあった、「腐食する、実をつけなくなる」はすべて自然のサイクルであり、本当にそうであったとしても差し支えないもののはずですが、心のいたむ話です。

果たして伐採済みの約60本がどこに向かったのかも気になるところですが、残りの巨樹群は後世に残って欲しいと切に願います。
今、いくらの利益を生むかではなく、気がつかないくらい小さいかも知れないけれども先々に多くの恩恵を与えてくれるかも知れない森の木々。

物言わない彼・彼女らに、関心をもち「利用できる資源としての木」ではなく、同じ生き物としての敬意を持って接したいものです。

いずれ保護できた巨樹の森として、「栃の木は残った」というお話になる?かも知れません。



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